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序章 : 私、コンシェルジュになります!
――私、本当にこのままだと生きていけないかも。
貯金通帳の残高を何度確かめても、残額は4万円を切っていた。
私、翠川 環は東京都内で働く派遣社員。
先々月、突如、派遣の営業担当者から契約終了を言い渡され、先月末で仕事を失う形となった。
派遣の仕事は契約終了1ヵ月前の通知であれば問題ないらしく、営業担当者と職場の人達のあっさりとした反応が一層、私を惨めにした。
「翠川さんなら、人当たりいいし、仕事もきちんとこなせるし何処でもすぐにうまくやっていけますよ」
取ってつけたような物言いにカチンときたりもした。
けれど、ろくに資格やスキルを持ち合わせていない私は、愛想笑いを浮かべるだけで精一杯だった。
退職した日の夜、ビールとおつまみを買い、誰も待っていない部屋で一人寂しくお疲れ会を催した。
ビール片手にテレビのバラエティー番組を観ていると、画面越しに感じる、これでもかという程の仰々しい陽気さと、自分の置かれた状況の虚しさとのギャップに、まるで内容が頭に入ってこなかった。
――お笑い芸人の人も泣いたりする日があるのかな。
画面越しの彼らは、皆それがまるでデフォルトであるかのように手を叩きながら笑い合い、見事なタイミングで会話を繋ぎ、場を盛り上げる。
一人暮らしであろうが家庭があろうが、彼らも家に帰り、孤独や不安に苛まれたりすることもあるんだろう。
私も落ち込んでばかりいられないな……
ビールでのぼせ上がった頬を強めに叩き、一人喝を入れた。
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