第二章 : 夜のしじまのカーテンコール

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デスク上の書類を整え、食堂へ向かう。 少し遅れてしまったので慌てて扉を開けると、片桐さんが二人分の昼食をテーブルに並べているところだった。 日に照らされ薄茶色に透き通って見える髪と清らかさの象徴の様な白のコックコートが、一層、片桐さんの清廉潔白なイメージを助長し、その空間は誰にも立ち入れない聖域のような空気を漂わせている。 ――私は、この光景が好きだ。 片桐さんは、お客様が居ようが居まいが、佇まいがいつも美しい。 熟練した技能がそうさせたのかもしれないが、それだけではない気がする。 そういったものとは異なる、天性のものとも言うべきか・・・・・・ 危うく、見とれてしまいそうになり慌てて言葉を探す。 「さっきはすみませんでした。私、全然気が付かなくて」 「こちらこそ、驚かせてしまってすみませんでした。何かいい写真は撮れそうですか」 (さっき聞かれた『タイプの男性か』という質問は、やっぱり大した意味はなかったんだ。あんなに動揺してしまった自分が恥ずかしい。) 「それが……あまりの写真のレベルの高さに驚いてしまって」 「確かに。皆、お洒落でセンスのいい写真が多いですよね」 「……はい。私、写真のセンスに自信がなくて」 「……うーん」 そう言えば、彼はSNSの類はやっているのだろうか。 「片桐さんは、SNSはやられているんですか」 「僕は、あまり得意ではないんですが・・・・・・」 そう言うと彼はスマートフォンの写真フォルダをおもむろに見せる。 ……す、凄い! 彼の画像は料理や景色ばかりだったが、どれも撮り方やアングルが絶妙で、一目見てセンスの良さが分かる写真だった。
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