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「アパートの管理人って興味ない?」
「はっ⁈」
思わずタメ語でつっこみそうになる。
「だからアパート、アパートっていうか寮、寮というのも違うか……」
「叔母さん、言っている意味がよく……」
「今度、都内で家具付き、食堂付きのアパルトマンを始めるの」
「アパルトマン?」
「やだ~、フランス語でそう言うのよ。若い子がそんなことも知らないの」
――叔母さんだって、さっき普通にアパート、寮って……
「長年の夢って言うかね、蔦の絡まる古めかしい、じゃない、レトロ調の洋館でね……そこでアパート経営してみようかなって」
「はぁ……」
「寮じゃないけど、料理人とコンシェルジュ兼、管理人を雇用して特別なアパートを作ってみようかなって」
明子叔母さんは、他にも何件か都内近郊にアパートを所有、経営している。
経営は順調で、どの物件も、ほぼ満室らしい。
社会情勢に敏感で、何だかんだで面倒見の良い点が、経営者に適しているのだろう。
だけど、そんなお洒落そうなものにまで興味があるとは知らなかった。
叔母さんの話によれば、アパートとは言え、ウィークリーマンションのように短期の滞在も可能にし、軌道に乗れば滞在者が外出する事が多いであろう日中に、一階の食堂とガーデンスペースで簡易的なカフェも始めようという目論見らしい。
「じゃあ、そのコンシェルジュって言うのは、叔母さんがやるの?」
「ん?それは環ちゃんよ」
「はい?!なんでそんな勝手に」
「だって無職なんでしょ?ちょうどいいじゃない。あの洋館見た時にふと貴方の事を思い出したのよ。残念ながら、あの洋館のコンシェルジュとなれば、私より環ちゃんかなって。若くて可愛いし……代わりの子が見つかったら、辞めてもらってもいいから」
――叔母さんの言い分はとんでもなかった。
だけど、私が金銭的にも精神的にもこのままあてもなく就職活動するには、限界が来ていたのは確かだった。
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