♯1 甘くて優しい世界 前半

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♯1 甘くて優しい世界 前半

「ハルくん!」 時々夢に見る、甘くて可愛い少女の声。 最初は優しく笑う子じゃなかった。 強くて壊れそうで、危なっかしくて。 ほっとけなかったから、助けた。 仲良くなるにつれて怖くて逃げた。 俺はきっと最低な臆病者。 …… ハッと目を覚ますと夜3時、 暗がりに見えたデジタル時計を見た。 「まだねみぃなー…」 寒かった冬も超えて、ゆっくり暖かくなってきた。 いよいよ高校二年生に上がる日が来ていた。 なんでこんな朝早くに目が覚めたんだ… ふとベッドから起き上がって外を見るとまだ暗がりだった。 うーん、と伸びをして扉を開く。 「いい風だなぁ」 夜空を見上げて、不意にカツンッと壁に石の当たるような音が響いた。 夢のことを忘れられそうな気がしていたのに、 音の先を見ると、 そこに居たのは忘れたかった過去を思い出させる顔だった。 よく覚えている。 「いっちゃん…」 ふと口にすると、彼は拳をグーにして俺に向けてくる、どこで俺の家を知ったんだろうって思いながら苦笑いをして降参しますって感じに手を振る。 ジャケットを羽織って階段を降りると、 彼、結城 唯舞が俺を睨んでいる。 「久しぶりですね」 冷たい目が突き刺さるようだった。 そうか、あの夢を見たのは彼からの贈り物かな。 「ずっとそこで待ってたの?」 俺がポケットからタバコを取り出して吸い始める。 バツが悪いからか、唯舞の方は見れなかった。 「いや、本当は学校で言ってやろうって思ってました」 「学校?」 もしかして、志騎高の一年として2人とも入学するんだろうか…少し緊張が走った。 いま、どちらかというと合いずらいのは彼ではないからだ。 「俺は志騎高の1年生として明日入学するんで」 俺は、ということは… 「…りっちゃんは?」 と聞くと、唯舞は更に苛立ったように感じる。 「剣ヶ崎高校ですよ」と小さな声で吐き捨てた。 「そっか、安心した」 そう言った俺の胸ぐらを即座に唯舞が掴んでくる。 「ふざけんなよ!!!!!お前が…」 声を震わせながら俺を殴ろうとするのに躊躇っているようだ、そうだろう… 怒りの中に悲しそうな声がする。 2人とは、こんなことになるつもりじゃなかった。 距離を置いた俺が悪いんだろうから。 「殴れば?」 俺に言われて、唯舞は俺から手を離した。 「明日、いや明後日でもいい…時間もらえますよね? 凜々栖と一緒に帰る約束してんで、会ってくれますよね?」 確かに有耶無耶にしたままじゃ、 2人のことをずっと引きずったままになっちゃうんだろうし… 「いいよ」 返事した俺に律儀に頭を下げる。 昔から悪い子ではなかった、いや… 2人を始めて見た時は正直イカれた子達だと感じた…俺に喧嘩をふっかけてきた時も、 いまだに思い出せる。 それは、中学二年生の頃の話、 俺は夏月と一緒に治安が悪いと言われていた学校に乗り込んでは頭潰しに明け暮れていた。 「俺が中学で1番になれば、高校入ってすぐ先輩潰せばいいんだろ?さっさとやっちまおうぜ」 なんて夏月は楽しそうに目を輝かせながら言う。 喧嘩が本気で好きなんだろう。 1番になることが大事だった。 親父を超えたい目標だけが夏月を支配している。 正直俺はどっちでもよかった。 俺には何もすることは無い。 でも… 「お前も一緒に来いよ?」 そうやって夏月だけは俺を求めてくれた。 絶対なる背中を守る存在だった俺は、 夏月のためなら死んでもいいとも思っていた。 鷹左右兄弟といえば、 恐れる存在だとなっていた頃にはやっと自分の存在価値があると思えていた。 ある程度存在が知れ渡り始めた頃、 2人は現れた… … 「鷹左右春輝さんって、あなたですかー?」 突然現れた可愛い金髪の少女が、 俺を見てにっこりと微笑む。 まるで天使のような姿に 天国への迎えが来たのかと思った。 「俺になんか用でもあんのー?」 自販機でコーラを買いながら、彼女に話しかける。 「りっちゃんのえものとったでしょー?」 なんか不思議な喋り方をする少女だなぁという印象だった。 俺がコーラの蓋を開けて飲もうとすると、 スパンッと勢いよく、蹴りが飛んできた。 俺のコーラは壁に飲まれていく… 「なんなのー?女の子でしょ?喧嘩売っちゃだめじゃなーい?」 俺がニコニコしながら、彼女に近づく するとニコニコしながら俺の顔に触れてきた。 「だってー、わたしたちのほーが、つよいんだよー?」 どうしても引き下がろうとしない様子だった。 可愛い顔をしているのに、この天使は堕天してしまったんだろうなぁ… …じゃあ仕方ない、 悪魔が何処までも堕としてあげるね。 そう思い、彼女の手を自分の口元に運び指先を舐める。 突然の行動に彼女は驚いて手を引っ込めようとするが、そうはさせない。 堕とすとこまで堕としてあげる。 心ではそんな事を思っていた。 既に女の子と遊ぶことに慣れていたから感覚が麻痺していたんだろう。 「コーラの分は、君でいいよ?」 ぐいっと小さな体を引き寄せて、 彼女を包み込む。 「まって!」と言われたが、 売られた喧嘩だ買ってあげよう。 そんな気持ちから絶対離してあげないって 悪戯心が高まっていた。 そっと口づけをすると、彼女が目を瞑る。 俺の力が思ったより強かったのか、 唇を何度も奪うとあまりにも心地よかったのか、 慣れてしまったのか… 彼女は俺の背中に手を回す。 女の子って本当に弱いなぁ。 不意に、口付けるのをやめると、 「……なんで?」 なんて、さっきまでの殺気に満ちていた顔ではなく、潤んだ目で彼女が俺に聞いてくる。 「君みたいに可愛い子は喧嘩しちゃ駄目。」 そういって、頭を撫でてあげると、 嬉しいのか恥ずかしいのか俺の服をぐっと掴んで俯いていた。 ほんのり赤くなった顔がまた女の子だなぁと 改めて感じる。 「わたし、りりすっていうの…りっちゃんって呼んでほしいなぁ…」 俺の顔が見れないのか、 ちょっともじもじとしながら小さく言う。 「りっちゃん…りりすって言うんだ?可愛い名前だね〜?」 「なまえ…あのね…」 りっちゃん、 結城 凜々栖 は過去の話を俺にしてくれた… 自分が起こしてしまった事件のこと、 結城 唯舞という双子がいること。 2人が中学時代に家を追い出されたこと、 今喧嘩に明け暮れていること。 俺の一つ下にあたり、結構な辛い人生を歩んできたんだな…俺は家族から必要とされない気持ちは痛いくらいに分かる。 「辛かったね」話終わる凜々栖をぎゅっと後ろから抱きしめてあげると、こっちに向き直って俺の背に手を回す。 そんなにキスするのが好きなのかな? 別に減るものでもない… そう思って深く口付けると合わせるように してくるので、凜々栖も遊び慣れているんだろうと俺は思っていた。 その日は、 新しい友達ができたようなつもりでいたんだ… 急に連絡が入ったのは数日後のことだった。 凜々栖から会いたいと言われた。 特に用事もなかったので、指定の場所まで向かう… するとそこには凜々栖と瓜二つの顔をした少年がいる…彼が結城 唯舞なんだろう。 「話は聞いてる…俺と戦えよ」 小生意気に彼が言った。 凜々栖は、いっちゃん頑張ってと笑顔で彼の背中を叩いていた。 どうやら、友達になったつもりだったのは俺だけか…多分あのキスも話も俺が同情するだろうという作戦に過ぎなかったのかもしれない。 舐められたもんだ。 不意に笑いが込み上げる。 「いーよ、かかっておいで?」 俺が不適に笑うと唯舞が駆け出して俺に拳を思い切って振るう。 それを手で防ぐと思ったよりも拳は軽かった。 まだ喧嘩を始めたばかりか、 しっかり人を殴った事がないんだろう…これだったら、唯舞より凜々栖の蹴りの方が何倍も強かった。 何度もふるう拳をするりと避けると、 唯舞が無闇に戦ってるのがよくわかった… なんせ疲れて肩で息をしている。 「やめといたら?」 俺に言われて、腹が立ったのか唯舞は畜生!!と声を荒げてまた拳を振る、蹴りは出してこない。 その勢いあった拳をうまく流し、背中に肘打ちを喰らわすと唯舞が蹲った。 声さえ出ていないようだ…少しは懲りたか? と思った瞬間にナイフが目の前を通過する。 間一髪避けたが、少しだけ髪が切れてしまう。 「いっちゃんに…さわらないで」 凜々栖は今までにない悪意だけの視線をこちらに向けている…まさかナイフまで出してくるとは、 「大丈夫だから、やめろ…」 唯舞は地面に伏しながら、言った。 2人はどうやら依存しているんだなと感じる。 こういう双子は好きだし憧れでしまうところがあった…俺の場合双子だとしてもそれぞれが自由だ。 ずっと一緒にいると勘違いされやすいが、 割と別行動もする。 そこには信頼もあった… お互いが強いからお前は負けない。 そうやって生きてきた。 もちろん手を貸す時もあるんだけど。 「ナイフかぁ…そーいうのって、良くないよ?」 床に落ちたナイフを拾い上げる。 その瞬間、思わぬ速さで凜々栖が俺にどこからか出したナイフを振りかざす。 何本持っているのやら… それを避けるが、意外に早い動きに目が離せない。 無我夢中の攻撃なのだろうがあまりにも適当で読めないからだ。 嫌な攻撃の仕方… 「りっちゃん、話してくれたこと嘘だったの?」 不意に俺が一か八かそれを言った途端動きが止まった。 「うそじゃないよ」 悲しそうな声で言う。 唯舞が立ち上がり俺の腕を掴む。 息が苦しいのだろうが凜々栖を守りたくて、 必死な目をしていた。 「何もしないって」 ナイフを床に放り投げて手をあげる。 降参してあげるよってポーズのつもりだったが、 凜々栖が突進してくる。 何を言っても駄目かもな… そう思い、本当は嫌だったが、 背中に回り込み一撃を与えると地面に崩れた。 あれだけ動いていれば、体力が温存出来ていないんだろう。 唯舞が焦って凜々栖に駆け寄った。 「もうやめた方がいいよ…」 俺が言うと2人は恨みや殺気だった目をした。 その日を境に2人は毎日のように俺のところに来る。 来る日も来る日も、 何かを仕掛けてきては俺に返り討ちに遭っていた。 もっとなにか連携が取れていれば… 2人がお互いを庇い過ぎていなければ… 絶対2人は強くなれる。 何度も挑んでくる2人に飽きてきたところで、 俺は一回賭けに出てみることにする。 「ねぇ、俺に負けてばっかだし…俺がもっと上手く戦えるように鍛えてあげるよ」 断られると思っていた提案だった。 「…いいの?」 予想していた方ではなく、俺の言葉に目の色が変わったのは凜々栖だった。 「うん、なんかさぁ〜勿体無いよ折角良いもん持ってるけど…連携取れてないし」 2人は顔を見合わせて一瞬悩んだようだったが、俺にお願いしますと頭を下げてくる。 何度も挑んできて無理だったからこそなんだろう… ちゃんと頭を下げられる2人を見ていると 凜々栖から聞いた過去の話を思い出して、 不意に2人をぎゅっと引き寄せて抱きしめた。 「強くなろうな」 頭を撫でると2人は不思議そうな顔をしていたが、 なんだか嬉しそうにお互い目を合わせていた。 変われるかも。 俺はこの日から、 自分の中に新しい世界を見ていた。 もしかして、俺でも誰かの心を動かせるんじゃないか? そんな淡い希望が浮かんでしまう。 でも、そんな気持ちとは裏腹に裏切ってしまった。 そう… 俺は不安になっちゃったんだ… 消してしまいたい過去があるなら… きっと2人のことかも知れない。 調子に乗ってた中学生には 深い傷も愛も幸せもあった。 だから、満たされただけ不安がいっぱいで 逃げ切った高校一年生の生活は楽しめていた。 でも、まさかな… 2年に上がった途端にまた、 複雑な気持ちと向き合うことになるなんて。 結局、 新入生入学式の初日は、 過去を思い出す二つの事件が起きる。 俺がきっと高校二年生になって、 もう一度、 誰かのヒーローになれるのかもしれない。 そうやって思わせてくれたのは 大切な人達がもう一度チャンスをくれたからだ。 もう失敗したくない。 これは、 仲間のためだけじゃなく、 自分のために、 やっと動き出せそうだと感じた 鷹左右春輝の 高校二年生の春の話。 …… next ♯2 甘くて優しい世界 後半 …… もういいでしょ!? いやいや、ちゃんと挨拶しますよーーー!! どうも春輝の中の人、神条めばるです! やーーーーっと、中学時代編に突入しました!!! ちょっと語らせてね。語りたい。 志騎高2年生の春輝をみんなが見てしまってるから、ちょっとイメージが違うかなって思うんですけど。 丁度この、中学二年生から春輝が情緒不安定??といいますか… 自分がなりたいものと向き合うことになります。 きっかけをくれた方が数名。 今回登場していただいたのが結城twinsです! この双子が居たから春輝は自分が誰かを救えるのかもなんてヒーローぶった性格になります。 その前までは、 夏月の金魚の糞みたいな感じです。笑 その話も書いてみたいんですけど… とにかく夏月は喧嘩っ早いから手を出しては 春輝が溜息つきながらも、付き合ってるみたいな感じです。 でも夏月と一緒は楽しいし、ずっと一緒だから当たり前みたいな感じでした。 さてさて、中学生になると春輝は女の子と遊び始めます。 というのも、 やはり家庭環境とかの問題があるんですが… 夏月は893の家業を継ぐのに、 春輝は役に立たないから家族から遠ざけられます。 これは春輝がそう思っちゃっただけで実際はめちゃくちゃ愛されてるので、 それが逆に春輝は息苦しくなっちゃうんですね…過保護なので春輝には何もさせたくないという事情があるんですが。 そこに、女の子から求められてしまうと、 誰でもいいやって感覚になっちゃうんですね。 そんな中学時代… 結城twinsと出会って、 女の子遊びをぱったり辞めちゃう出来事が起こります。 ディープな話になってしまうけど、 遊ぶっていうのは性的な遊びの意味として。 春輝は嫌になってしまうことが多くて基本最後までしません。 女の子からしたら盛り上がってたのになんで?ってなってしまうでしょう。 しかも付き合うって感覚が曖昧です。 何故なら彼が曖昧だから。 好きとか嫌いとか、どうでもいいんですね。 なんとなく誰かがいればいいやって それだけだったんです。 でも、 凜々栖との関係で春輝は変わるんですね。 女の子遊びをやめるとかじゃないけど、 彼の遊びは性的な遊びじゃなくなります。 そう、女の子を大事にしようって意識に変わります。 はい、実はここだけの話?? 女の子遊びに出かける春輝。 性的なことは一切しません。 期待した女の子はがっかりするかもですが… まぁ、昔ならしていましたが、 ドライブ行ったり、 バーベキューしたり、 普通に遊びたいだけなんですね。 春輝はそれが丁度いいって、 高校上がってから変わります。 周りから言動で遊びにいくって聞いたら、 チャラそうなイメージをもたれちゃうかもしれないけど、本当に遊びにいくだけです。笑 女の子遊びで有名な巽先輩や、つい最近ストーリーで登場してくれた薫くんも女の子遊びをするらしいですが。 3人で女の子ハントに行くと、2人はやる事やって春輝は普通に夜中遊ぶだけ遊んでバイバイする子です。 キスぐらいならするかもしれないけど。 滅多にしないですね。笑 だから、 凜々栖ちゃんが良いきっかけをくれました。 今はまだ見えないけども、 後半でその理由が見えてきます!! しかも、その後半に… とある人が出てきます。ふふ それも含めて、また次回を楽しみにしていてもらえたら幸いです! あ、やらないからって、 春輝は童貞ではありません。笑← 今回は性事情まで暴露してしまったけど、 高校生になった春輝は割と紳士タイプかもしれない意外な話でしたーーー 女の子の家にもなるべく上がらないようにしたい春輝くんでした。 でも、中学時代のことやら噂やら、 そんなのが付き纏うせいで 結局本当の彼を知る人は少ないのでしょう。 遊び人やチャラいってイメージが中々抜けないから、学校での評判は一人歩きしているはず。 きっと、知ってくれたのは この小説を見てくれた人だけですね。笑 とまぁ、そんな感じで! 長くなりましたが次回更新をお待ちください〜 ではまた。
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