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十年目のふたり
今日でついに十年を迎える。
何が十年を迎えるか、それは……。
「やっと着いたね」
「そうだな、詩織……」
俺と詩織が大学卒業と同時に結婚して今日で十年目であった。
そして、十回目の結婚記念日となる今年、俺たちは大学旅行で訪れた詩織の故郷にほど近い海の見える旅館へと来ていた。
旅館からは海が見えることもあり、旅館から徒歩で海に向かっても十分かそこらでついてしまう。それがこの旅館の魅力の一つであったりする。十年前の大学旅行の時も詩織がこれを気にいって、この旅館を選んだ。俺自身、小さい頃から海とは縁がない地域で育ったため、そのことにはとても興味を惹かれた。
そうやって二人で大学旅行を計画し、今日みたいに二人でこの旅館を訪れたのは今から十年も前のこと。そう思うと、考え深いものがある。
「もう十年経つんだな」
「なぁに? まだ若いのにおじいさんみたいなこと言うね」
「若いって、俺たちもう三十二だぞ」
「四十までは若いの」
「それ、大学の時は、三十までって言ってたよな……」
「なによ。そんなことまで覚えてるなんて。本当に私のこと好きなのね」
「当たり前だ。好きじゃなきゃ、十年も一緒にいないだろ」
「うっ……。それはちょっと卑怯」
詩織は荷物を整理していた手を止めて、俺の胸に軽く握った拳をぶつけてくる。もちろんそんなパンチは全然痛くない。
「私たちもそんなに若くないんだから、バカップルみたいなこと言わないで」
「さっきは、まだ若いって言ったのに、めちゃくちゃだな」
「うるさい!」
今度は両の手をグーにして、俺の胸をぽかぽか叩いてくる詩織であったが、もちろん痛くなく、もはや小さい子が駄々をこねているような可愛ささえあった。
詩織が俺のことをどれだけ好いていてくれているかは俺にはわからないが、俺はこの十年間一度として詩織以外の女性に惹かれたことはない。男として、女性を見て綺麗だとか、可愛いと思うことはあったが、付き合いたいだとか、それ以上のことを望んだことは全くとしてなかった。それだけ、目の前にいる詩織には惹かれていた。
だからこそ、俺は今日。
結婚十年目を迎える今日、確かめたいことがあった。
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