十年目のふたり

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「ねぇ、私たちってこれからどうなると思う?」  再び歩き始めた詩織からは突拍子も無い言葉が放たれる。 「こ、これから?」 「そう」 「ちょっと待ってくれ、俺の質問に──」 「答えるわ。だから、まずは私の話を聞いて」  詩織は少し前を歩き、俺の方を振り返った詩織の視線はまっすぐに俺のことを見つめており、その視線が逸れることはなかった。 「わかった」 「それなら、海に行きながら話しましょ」  俺たちはまた、肩を並ばせて。歩みを揃えて歩き始めた。 「それで、これから私たちってどうなると思う」 「これからと言われてもな。とりあえず、俺はこれからも詩織のこと。そして秋穂のことを愛していくよ」 「それは嬉しいわ」 「それがどうかしたの?」 「じゃあ、もしも私が明日死んじゃったら。あなたはどうする?」 「な、何を物騒なことを……!」 「例え話よ。例えばのはなし」 「そんなこと言われても、想像できないよ……」  詩織という存在は高校時代に始まり、俺の生活のどこかには詩織がいた。それはクラスメイトという時もあれば、友という時もあった。そして、それが恋人になり、今では愛する妻となっていた。そんな人が明日突如いなくなると考えたら。それは自分の手足を失ったような感覚に近かった。明日、手がなくなったら生きていけるかと質問され、確かに食事は口があるのだからなんとかなるかもしれないが、洗濯や入浴など、実際のところ生きていけるのかわからないのと同じで、今の俺には想像すらできなかった。 「じゃあ、少し質問を変える。もしも、明日から死ぬまで。私があなたの最愛の妻として生きて、あなたが死んでしまうその時まで添い遂げたとしたら?」 「そんなのは願ってもないよ。でも、一つだけ訂正することがある」 「なに?」 「俺は詩織のことを見送ってから死にたい」 「あら、嬉しい」 「それで、それが俺の質問とどう関係があるんだ?」 「もしも……。もしもの世界が目の前にあったらそれってすっごく素敵だと思わないってことが言いたかったの」 「それは、確かにその通りだな……」 「実はね。私にはそんな夢を思い通りにする力があるの」 「本当なのか!?」 「そうだと言ったら、どうする?」 「なら、これからもずっとに一緒にいてほしい! あっ、でも詩織が俺のことを好きでいてくれるならだけど……」 「もっと力でも使って、こうしろー!とか言ってくればいいのに……」 「そんな、詩織を傷つけることはできるわけないだろ」 「……本当、そういうところが好きよ」 「えっ、つまりこういうところが俺を好きになった理由なのか?」 「まぁ、選んだ理由の一つとしてはそういうことかな」 「なんだ、違うのか……」 「あと、夢を思い通りにする力なんてものはもちろん嘘よ」  まるで幼い子供のような、意地の悪い笑みを浮かべながら舌を少し出してから、詩織は笑った。 「それじゃあ、一体なんなんだ。俺を選んだ理由というのは」 「それはもう少ししたらわかるかもしれない」 「もう少ししたらわかる?」 「ほらっ」
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