十年目のふたり

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 いきなり駆け出した詩織に視線を向けると、いつの間にか海へとついていた。気づけばそんなに歩いていたのかと思ったが、旅館から海までそこまで長くないことを再認識して、そんなものかと感じた。  夕焼けに染まる海。白い砂がオレンジに染まる砂浜へ詩織は石造りの階段を降りていって、まるで童心に返ったように砂浜を駆けていた。  そんな詩織の後について行くと、詩織は波打際でポツリと立っていた。 「どうかしたのか?」 「ほら、あったよ」 「あったって、何が?」 「私たちの(みらい)だよ」  俺の方へと振り返った詩織の手には一つの瓶のボトルが握られていた。そして、その中には丸くなっている手紙のようなものが入っていた。 「これは……?」 「メッセージボトルって知らない?」 「確か、瓶に手紙を入れて海に投げるみたいな……」 「そう、そんな感じ」 「どうして、そんなものがここに?」 「それは、この中身の手紙を読めばわかるよ」  瓶の蓋を開けて、中から丸くなった手紙を取り出して、おもむろに手紙の封を切りとって、手紙を広げる。 「十年後の私へ」 「おい、読んでいいのか? メッセージボトルって誰か想い人に向けたものとかじゃ……」 「いいから、聞いてて」  詩織の言う通り、俺はおとなしく黙って聞くことにした。どちらにせよ、見た感じ外側には宛名のようなものは記載されていない。中身を見ないことには誰に向けたものかもわからない。それに、詩織が先ほど読んだ感じからすると、書いた人は未来の自分に向けた手紙らしい。となれば、その人に持っていけばいいのだ。少し書いた人への後ろめたさはあるが、手紙の内容に興味がないわけでもない。
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