十年目のふたり

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「二十年前のあの日。当時まだ小学六年生の私の夢は素敵な旦那さんのお嫁さんになることだった。そんな私の夢の旦那さんになってくれる人はあなたみたいな優しくて、気配りができて、モテモテなのに私をいつまでも愛してくれる人。そんな彼があなただったから。だから、私はあなたを好きになったし、結婚したの。和哉(かずや)さん……」  詩織はもう手紙を見ていなかった。今の言葉を話している時、一度として手紙を見なかった。そして、詩織が最後に読んだ名前は俺の名前。 「その手紙、詩織が書いたのか……」 「そう……。これは私が十年前、あなたとここに来た時に海へ流したもの」  詩織は頬を伝う涙を拭う事なく答える。 「十年前ここに来たあの日。私は今日みたいにこのメッセージボトルを拾った。それはその時から十年も前。小学校を卒業したばかりの十二歳の私が流したメッセージボトルだった。その時に書いた手紙にはいかにも子供っぽい夢が書いてあった。メルヘンチックな内容だったけど、素敵な夢。そして、そんな子供の夢が全部叶っていたの。まるで、夢が現実になっていたかのように」  詩織は旅館からずっと肩にかけていた手提げかばんの中から一枚の手紙を取り出す。それは今、詩織が言っている十年前にここで拾った手紙のことであろう。確認せずともそんなことはわかった。  それよりも、俺はもう一度確認したかった。  十年以上も俺が聞きたかったその言葉を。 「もう一度だけ聞いてもいいかな……」 「しょうがないですね。結婚十周年のお祝いに、もう一回だけ言ってあげます」  夕焼けに染まる砂浜に、ぽとり、ぽつりと雫が落ちる中もう一度だけ彼女に尋ねた。 「詩織が俺を選んでくれた理由はなんですか」  初めて告白してくれていた時よりも涙ぐんだ顔で。  結婚を申し出た時にニコッと笑って彼女は言った。 「二十年前から、あなたが私を。私があなたを知らない時から、私はあなたのことが。和哉さんのことが好きでした」  今まで抑えていた彼女への愛情が止められなくなって、周りを気にすることなく彼女を強く抱きしめた。  いつもは寄り添って来てくれるその体を自分から引き寄せて、強く、ぎゅっと抱きしめた。 「十年後も私を好きでいてください……」  俺の胸の中で小さくそう呟いた彼女に俺は言った。 「死ぬまで、あなたのことを愛し続けます」  水平線の向こうの夕焼けもついに沈み、世界が今日の終わりを告げているようであった。  二人にとっての十年目の結婚記念日が終わり、十年と一日目の結婚記念日が始まりを告げていたのかもしれない。
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