娘と男の今

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娘と男の今

父の日。 それは大好きな父に甘えられる日。 けれども、全ての娘が父を好きだとは限らないと知った日。 小学生の頃だったと思う。 休み時間に当時のクラスメートの女子達と話していた時だった。 「ねぇ? もうすぐ父の日だけど、みんなは何をプレゼントするの?」 私が尋ねると、話していたクラスメート達の温度が一気に冷えたのだった。 「父の日ね……。みんなは何かプレゼントを上げる?」 リーダー格の女子は周りに尋ねる。 すると、みんなは目を逸らした。 「私は……。父親居ないから。……お母さんが離婚しちゃって」 「私も……。お父さんが死んじゃったから」 クラスでも物静かな二人が、そっと答えてくれる。 「他は?」 「私はあげないよ。父さん嫌いだし」 「うちも」 ボーイッシュな女子と、リーダー格の女子が答える。 私は首を傾げたのだった。 「お父さん嫌いなの?」 「嫌いだよ。だらしないし、厳しいし、汚いし」 「わかる〜! お父さんの服と一緒に洗わないで欲しい!」 クラスの女子達は、自分の父親の悪口を盛んに言い合う。 私は話の輪に入らなかったが、この時になって気づいたのだった。 全ての娘が、必ずしも父を好きだとは限らないのだと。 それから、数年後。私は大学生になった。 けれども、私は今でも父が好きだし、父と結婚したいとも思っている。 この歳になると、自分でも自分自身がおかしい事に気づく。 どうして、自分はこんなにも父が好きなのだろう。 それも家族としてではなく、異性として。 原因は色々考えられた。 まず、私は父子家庭で育った。物心がついた頃から、父と二人きりで暮らしていた。 母はいなかった。私が生まれた後に亡くなった訳でも、離婚した訳でもない。 父は独身で、これまで結婚しないで、男手一つで私を育てていたらしい。 (それって、どんな状況なんだろう……?) 結婚しないで娘を育てる状況。考えても私には思いつきそうになかった。 狭いアパートの一室で、私は洗濯物を畳みながら考えていた。 カレンダーを見れば、明後日は父の日。 けれども、父は毎日仕事に行っていて、休む日がない。 夜遅くまで帰ってこない事や、数日間帰って来なかった事も多々ある。 そんな多忙な父が、未だにどんな仕事をしているのか、私は未だに知らなかった。 聞いてもいつもはぐらかされていたからだった。 (父の日は帰って来てくれるといいなあ……) 私が溜め息をついたのとほぼ同時に、ピーッとヤカンが鳴った。 お湯を沸かしていたのをすっかり忘れていた。 私は膝の上の洗濯物を床に落とすと、慌てて火を止めに行ったのだった。
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