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この男はつかめない。それなのにどうしても好きなのだ。それはもう先生を自分の身体に取り込んでしまいたいくらいに好きなのだ。殺して食べたいといったカニバリズムではなく、ただただ愚直なまでに先生のすべてを知るために先生を体に取り入れたいと思ってしまうのだ。
でも先生を体に取り込んだらこうやって話すことはできないんだろうな。我ながら中二病的なことを思っていると自覚しているものの、こう思うことが儒愛の証だと真剣に思っている。
まわりは若いから、愚か者ともいうだろう。だけどそんなことがどうでもよくなるくらい私は先生が好きなのだ。
淹れてくれたコーヒーを半分呑んだところで隣に座っていた先生が触れる程度のキスをしてきた。自然なキスの仕方はいまだに慣れない。意識しない間にいつのまにか離れている先生の唇。でも「あ、今キスをしたんだ」という感触はきちんと残してくる。
このキスが始めの合図だ。
私は黙って立ってシャワーを浴びてから寝室に向かう。先生はだいたい私が来る前にシャワーは済ませていて寝室で待ってくれている。
少し緊張するけどこれから先生に思う存分触れることができる時間がくる。この高揚はいつもいつも私をもてあそんで理性を破壊する。
部屋に入ると先生はベッドに座っていた。私が入ってくるなり「おいで」とやさしく笑って手招きをした。
カーテンが閉めてある部屋はもう夜だ。本当に底が知れないくらいに夜の空気が広がっている。
バスタオルだけを撒いたままの無防備な格好の私は何度言われてもなれないなぁと思いながらも、うれしくてたまらない気持ちを抑えてベッドに入る。
先生の体温で少しあたたまった布団の中は本当に心地がいい。バスタオルを巻いたままの私は慎重な手つきでバスタオルをはずして、先生にすがるように抱きつく。先生は細いけど私よりは骨が太いし、体の構造の違いを改めて感じる。今日はいつもより熱い先生の体温。寒い季節はこんなにひっついても汗で邪魔されないからいい季節だ。
「アサヒ」
本当に小さな声で先生は私の名前を言った。名前を呼んでくれることは珍しことではない。でも何度だって嬉しい。
先生は掬いあげるように私を抱きしめて優しく押し倒した。
ああ、待ち焦がれたほどの時間の入り口で外ではまだ雨が降りしきっている。ずいぶん長い雨だ。もしかしたら警報がでるかもしれない。
それならそれでいいかもしれない。いろんな災害にあった地域や人には申し訳ないけれど、このまま雨に閉じ込められてしまいたい。
私はそう思いながら先生の丁寧な神経質なほど細やかな愛撫を受ける。
「君の胸の形も大きさも知っている」なんてセクハラめいたことを言っていたけれど実際に胸に触るときは撫でるだけだ。欲まみれのやり方を決してしない。毎回まるで処女を相手にしているのかというくらい慎重に私の中に入ってくる。
先生が私の中に入ってくるときの表情はいつも同じ。軽く首をしめられているかのようにゆがむ。首なんて絞めたことはないけれど先生が首を絞められた時のを顔を想像するなんて簡単だ。それくらい先生のことを知っている。私だけだ。
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