鏡界

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鏡界

 その機械は「三面鏡型人格変換器」通称「鏡」といった。多重人格が起こるメカニズムを逆手に取り、故意に脳にストレスを与えることで人間の中に別人格を生じさせ、人間の主人格が受けるストレスを分散させる目的で作られた、精神不調予防装置である。三面鏡の各面にはそれぞれ人格が設定されており、その三つの人格の中から一つを選択し自ら取り入れられると言うものである。  各面の人格は、正面は論理的で冷静である「勤勉型」、右面はコミュニケーション能力が高く協調性があり明るい「調和型」、左面は負けず嫌いで強気な面が突出した「外向型」に設定されており、各面に対応するボタンを押すことで脳と「鏡」がパーソン・コントロール、通称パソコンという電波のようなもので繋がり、脳内神経伝達物質がコントロールされ人格を変化させるのだ。「楽」に、ストレスなく生きることを求めている人間にとって、これは完璧な装置であるとたちまち話題になり、流行は全国各地に拡大しほぼ全ての家庭に「鏡」が置かれているという状況となった。精神の不調を来す人は減り、効果は絶大、人間は「生きやすく」なっていた。
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