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エルミナ
ぱちっ
春の荒野の闇夜に、焚き火の火の粉が弾ける音が響いた。
「ん…」
その音に反応したかのように、俺の目の前が少し動いて声がした。
「おっ!目ぇ覚めたか?」
「ここは…?」
焚き火に照らされ、此方を見つめる女性の目が点になっているのが分かる。
「エルミナの南の荒野だよ!」
「南…?」
「そう!ここから北に一日進めばエルミナだよ!」
話しながらマグカップに水を注ぎ、彼女に渡した。
「そう…あ、ありがとう」
受け取った彼女は、一口飲んで焚き火を見つめる。
「で、君…名前は?」
「私は…ラベリア・グラウス…貴方は?」
「俺は…シュウ・ケルン・ラークシア」
ラベリアと名乗った女性は、水を飲み干してマグカップを返してきた。
「君って、エルミナの聖騎士だよな?」
「そうだけど…何で?」
「君みたいな聖騎士が、どうしてこんな場所に…って思ったんだけど…」
彼女はまた、目を点にして此方を見つめる。
それを見ながら、この状況を説明するため、口を開いた。
俺がこの辺りを通りかかった時、魔物の群れが見えた。
行動がおかしいと思い近づくと、誰かが襲われているように見えたため、助けようと無理矢理魔物の群れに割って入ると、ラベリアが額から血を流して倒れていた。
彼女を抱えながら戦い、何とかその場から離れてここを野営地にした。
「倒れてた?」
彼女は頭を抱えて呟いた。
「覚えてない?」
「うん…」
彼女は微かな声で呟く。
「一時的に記憶を失っているんだと思う…」
「…」
「そのうち思い出せると思うけど…」
「だと良いんだけど…」
彼女は不安な顔をして呟いた。
「この辺りには強い結界を張ってる…魔物も襲って来ない」
「うん…」
俺が彼女に掛けていた、動物の毛皮で出来た毛布を直しているのに気付いて口を開く。
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