それでも雨は止まない

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今日は雨が降っていた。だから傘を持つことに意識を取られて大事な会議用資料を家に忘れてくるヘマをした。 取りに帰ったのは十時頃だったと思う。会社で気付き、会議は午後からだったから一度取りに帰宅した。 だが、異変に気付いた。玄関に見知らぬ靴があった。男物の靴だ。私の物じゃない。妻の物でもない。そして、寝室から誰かの声が聞こえていた。妻の声ではなかった。 私は気になって寝室に行った。そのドアを開けた時、妻と見知らぬ男が私のベッドで行為に及んでいた。 頭が真っ白になった。私が頑張ってきた今までが全て裏切られたような気がした。それとともに、妻が浮気するわけがない。『襲われている』んだと思った。だから私は急いで台所に行き、朝食を作った包丁がまだ流し台にあったので、それを掴んだ。 ようやく冷静になった時には、私の持つ包丁から赤い液体が流れ、同じ色が男の腹からも流れていた。 男はベッドに蹲って死んでいた。妻は怯えていたが会話できそうだったので、このことは黙っておくように言った。その後、死体の隠蔽や事後処理を考えたが、どうせ喋るだろうと思ったのでこうして自分の口で喋っている。 「自分がしたことは話したくなるだろ。誰かがバラす前に自分で言いたくなるんだ。」 男が笑う。好きな歌を口ずさむようにご機嫌に、体を揺らしながら興奮冷めやまぬ子供のように笑っていた。 梓汰民はその男に引いていたが、遠藤は真剣に男の目を見ていた。 「…君は、その話を自慢したいのか。」 「今している!」 「残念だが、それを自慢話とは言わない。『与太話』という。」 男の眉が上がる。梓汰民は男を挑発する遠藤に多少の怒りを覚えながらも、いつもの落ち着きぶり、無関心ぶりに安堵した。 「私の話が嘘だと言いたいのか?」 「信用しきれないという意味だ。君の話には不明確な点が多い。」 「どこだ。言ってみろ。嘘だと言うなら理由を言え!」 憤る男を見ながら遠藤は静かに口を開いた。 「では、此方の質問に移らせてもらおう。君の話が与太話ではない証明を見せてくれ。」 雨音が聞こえてくる。雨足が強くなってきた。
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