それでも雨は止まない

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男が怒っている。目は血走り、眉は釣り上がり、口角が下がっている。対して遠藤は無表情に男を見つめている。人によっては睨んでいると勘違いされそうな冷たい目を万人に向ける。 「質問をする。」 1.包丁はどこにある 「家だ。家を出る前に玄関先に置いてきた。」 2.何故処分しなかったか 「妻が殺人をバラせば処分してもしなくても変わらない。あいつはどうせバラすだろう。」 3.なら妻も殺せばいい。何故妻は殺さなかったのか 「これでも妻を愛している。」 4.台所まで行くまでに相手の男は何かしらのアクションを取らなかったのか 「平然としている私の様子を見て混乱して固まっていた。だから包丁も刺せただろう。」 5.どうやって腹を刺した。背中からではないのか 「男が振り返ってこちらを見ていたからな。腹を刺した。」 6.今、妻は何をしている 「知ったことではないが、証拠隠滅を手伝ってもらった。シャワーを浴びて血を落とさせ、血で汚れたシーツをゴミ袋に入れさせた。死体隠蔽を妻に行わせることで同罪にさせて秘密にさせようとしたが、違法性だの緊急避難だの言葉を並べて逃げられるだろう。だから俺がこうしてバラしているんだ。」 7.何故警察ではなくここに来た 「交番に向かう途中でここを見つけた。何でも屋なら話を聞いてくれるだろう?人を殺したなんて初めてだ。誰かに話したくてうずうずしていた。警察に聞かれちゃそいつで終わりだから他の人にも聞いてもらいたかった。」 8.犯行は10時。この5時間は何をしていた 「現場の処理と妻との口裏合わせと死体処理だ。けれどそれも無駄だったな。私が言ってしまっているから。」 9.死体はどこに捨てた 「捨てていない。風呂場で血抜きしている。見にくるか?」 10.何故嘘だと思われたくない 「本当のことだからだ。それ以外に理由があるか?」 11.5時間で証拠隠蔽したと言っていたな。何故包丁は処理していない 「ああ、間違えた。包丁もゴミ袋に捨てた。ビニール袋で縛ってからな。」 12.2の質問と矛盾する。 「興奮してるんだ。それくらいの間違いは許せ。」 男は全ての質問に即答した。考える時間は無かった。 梓汰民が男の様子を気にしながら遠藤に耳打ちする。 「スラスラ答えてるよ…。やっぱり、人殺し…?」 遠藤は答えない。終始男の方を見ている。 その時、雷が鳴った。轟く音と光が五感に危険信号を訴える。 「きゃっ!」 梓汰民が悲鳴を上げる。男の目が梓汰民に向いた瞬間、遠藤が口を開いた。 「認めよう。君の家に死体がある。」 男の顔が晴れる。だが遠藤の表情は雨雲のように暗い。 「だが、やはり与太話だ。ハッキリと分かった。君は『嘘』をついている。」
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