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榊原修の家は、郊外に建てられた大きな一軒家だった。この辺りは団地もできて郊外型の店もたくさん出店していたが、山が近く、少しだが畑もあり、まだ自然が残っている地域だ。裏道を走ってきた自転車組が先について、外で待っていた。
河城君は修に車のドアを開けてもらって降りると、珍しそうにみんなの自転車をながめていた。そして、家の方に目を移した。
「ここは?」
「シューの家だよ」
「さ、みんな、入って。バッチャン、ただいま!」
「おかえり。修ちゃん」
祖母が迎えてくれた。両親が共働きなので、修と二歳上の兄はこの祖母に育てられた。白髪だが、シャンと背筋の伸びた上品な人だった。
「いらっしゃい。どうぞ、あがってください」
「はじめまして。杉浦です」
葵は丁寧にお辞儀をした。
「先生、修がお世話になっております……きれいな方ね、修ちゃん」
「バッチャン、もう一人増えるけど大丈夫だよね?」
河城君のことだ。彼は珍しそうに家の中をきょろきょろ見ていた。
「大丈夫よ。材料は十分あるから」
「バッチャン、この子はハソングンていうんだよ」
「ハソン君、いらっしゃい」
グンがクンに聞こえたようだ。
「……」
河城君はまた呼び捨てにされたのが気に入らなかったのか、不服そうな顔で黙っていた。そんな彼を見て祖母が言った。
「ハソン君、いい衣装着てるけど、着替えないの? 汚したら大変!」
「そうだね、僕の服、まだある?」
「ええ。あんたの部屋の押し入れの衣装ケースにあるから、出してあげてね」
修は、河城君の手を引っ張った。
「行こう! 先生も来て!」
2階の修の部屋はきれいに片付いていた。おそらく祖母が毎日掃除しているのだろう。ほこりもなく、空気がピンと澄んでいて、押し入れの中の荷物も行儀よく並んでいた。
「あった。身長、何センチくらいかな? ハソングン、今、何歳なの?」
「12歳だ」
「12歳? その割には小柄だなあ」
修が昔着ていた服を出してくれた。きちんと納められていたので、とてもきれいだった。
「これ、全部あげるよ。これからどのくらいここにいるかわからないもんね」
「少し古びて見えるが……?」
河城君が服をつまむと葵がすかさず言った。
「ありがとう、修君。よかったね、河城君様。こっちの方が楽よ。着てごらん」
「先生がそう言うなら……」
機嫌が悪かった河城君だが、葵の言う事には素直に従った。下着は修がコンビニに買いに行ってくれた。
河城君は長髪を頭の上でまとめ、お団子にした髪型だった。お団子男子は珍しすぎる。
「髪型、変えてもいい?」
「このままでは問題があるのですか?」
「ええ。ここではその髪型は女の子しかしないのよ」
そのままでも女の子のようにかわいいが。
「先生がそうおっしゃるのなら、お任せします」
葵はバッグから櫛を出して、河城君の髪を後ろでひとまとめにしてくくった。
河城君は帰ってきた修に手伝ってもらいながら、ブルーのチェックのシャツとベージュのチノパンに着替えた。サイズはぴったりだった。
下に降りると、庭に、バーベキューコンロやテーブルが用意されていた。
「わ~ハソングン! オタクファッション!」
真凛はいつでも正直だった。
「はいはい、僕はオタクですよ」
反応したのは、元の持ち主の修だった。
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