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王子様、スーパーへ行く
スーパーの駐車場についた。3時過ぎまで食べていたのでお腹はいっぱいだが、河城君が泊るとなると、それなりの準備が必要だし、明日の食料も買っておきたい。
「うわー! なんですかこれは!」
河城君のめずらしがり屋にも、ずいぶん慣れてきた。今度は駐車場の車とその数に驚嘆している。そんな彼を店の中に連れて入って大丈夫なのか。かといって、車に残してじっとしていてくれるのか。葵は幼児を連れているような気分になった。
「河城君様、今から、この建物の中に入るけど、何も言わずに静かに後をついてきてくれる? 珍しいものがたくさんあるかもしれないけど、黙ってついて来てほしいの。今日は我慢して。ね? お願いします!」
葵は深々と頭を下げた。
「先生がそこまで頼むなら我慢します」
河城君の瞳は力強く輝き、表情はきりりとしていた。さすが王族。きっとこれなら大丈夫。葵は信じることができた。
車を降りると河城君はきちんと葵の後ろについてきた。しかし、スーパーの入り口を入ると、さっそく河城君が葵の袖を引っ張った。とはいえ、約束通りちゃんと黙ったままだ。
「なあに? どうしたの?」
河城君が目をパチパチしながら、葵に訴えかけていた。あまりにかわいいので、おもわず葵の笑みがこぼれた。彼は自動ドアが珍しかったようで、もう一度やりたそうだった。
「じゃあ、一回だけよ。一回だけ向こうに行って帰ってきて」
河城君は目をキラキラさせて嬉しそうに自動ドアに向かった。そおっと前に立つとウイーンとガラスの板が横に動いて開く。キョロキョロ見回している後姿に思わず葵の頬が緩んだ。扉が閉まり、彼が振り向いてこちらに歩き出すと、扉が開き、彼は、満面の笑みで葵を見たので、葵もうれしくなり、微笑みをかえした。
「先生、お待たせしました。ありがとうございました」
幼児のような振る舞いに反して、礼儀はきちんとしているのが、なんだか不思議だった。まもなく河城君がまた目をパチパチし始めた。
「いいよ、しゃべっても」
「あれです! 私も押したいです」
河城君は他の客がカートを押しているのを見て、やってみたいと思ったようだ。
「わかった。押してもいいよ。ぶつけないように、ゆっくりね。今日はこれだけは許すけど、他のことは珍しくても我慢して静かに行こうね」
「承知しました。先生。感謝します」
葵はカートにカゴを入れて、河城君に押させた。彼はうれしそうにカートを押しながら、次々に野菜をカゴに入れようとした。
「ちょっと待って~!」
河城君が不思議そうに振り返った。
「ごめん。説明が足りなかった。今日はあなたは押すだけ。入れるのは私。わかった?」
「承知しました。先生」
それから河城君は静かに葵についてきた。目に入る一つ一つに目をキラキラさせていたが、約束通り、ちゃんと黙っていた。葵は一通りの買い物を終えて、レジに並び、スムーズに会計をすませた。
「河城君様、本当にいい子だったわね」
「いい子? 私はもう子供ではありません」
「ごめんなさい。失礼だったかな。今日は河城君様がカートを押してくれたおかげで、たくさん買い物ができたわ。ありがとう」
河城君は、葵の笑顔を見て満足そうににっこり笑った。
駐車場に戻ると、河城君は見よう見まねで学習したようで、自分で車のドアを開けて乗ることが出来た。シートベルトの締め方も教えると、自分で締めた。
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