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4月、桜の舞う季節。
ガヤガヤと賑わうクラス分けの書かれた大きい紙の前。
沢山の声が飛び交う人混みに押されながら、私も一つ一つクラスを確認していく。
どうか、どうかここにありますように…
友人の名前をいくつか見つけるが、私の名前はない。
嫌な、予感がする。
「な、ない…」
自分の名前がどこのクラスにもないのだ。
と、いうことは。
ぎぎぎ、と古びたロボットのように首を回す。
そこはクラスを確認する人だかりから少し離れたところ。
今年新設されたという、新しいクラスがあるという話は聞いた。
曰く、先生達の手に負えない人はまとめてしまおうという魂胆が見え隠れするようなクラスで、今年のみらしい。
そう、所謂問題児クラス。
もしかして、私も。
小さなA4サイズの紙に、少ない人数の名前が載っている。
それを見ていた優しそうな大きい男の子が此方をくるりと向く。
「えっと、山田…?お前、こっちのクラスだぞ。」
嘘でしょ、と声にならない声が出たのは、私の喉からだったか。
気まずい。
出席番号順なのか、ひとつ一つの机に貼られていた名前の順に静かに座っていく。
話をするのが得意ではない為、黙っているけど話した方がいいのかな。
横に掛けているスクールバックには友達とお揃いのキーホルダー。
その友達とクラスは離れてしまったのだけれど。
「えーっと、改めて五組の担当になりました、海口です」
面倒臭そうに黒板に名前を書く海口先生。
「この五組は人数が少し少ない分、みんなと仲良くなっていければいいなと思います。少人数クラスは今年度のみの特別枠との事で、初めてのことなので先生も不慣れですけれども、頑張っていきましょうね」
明らかな棒読みの担任に返事するいい子はここにはいなかった。
「じゃあ、自己紹介してもらおうかな。出席番号一番から行こうか。」
突然の自己紹介のお願いに戸惑いを見せることなく、ガタンと椅子を鳴らし立ち上がったのは眼鏡をかけた目つきのキツい女の子。
「大西蓮です。授業の邪魔だけしなければ特に不満はありません。以上。」
不機嫌そうに鼻を鳴らし席につく彼女。
…ちょっと怖そうだな。
かたん、と控えめな音ともに肌の白い男の子が立ち上がった。
「おがわ、小川純次郎です。体が弱いので、休みがちですが、一応剣道部に入っています。仲良くしてください。」
きょろきょろと見渡しそっと席につく男の子は可愛い。
小動物みたいだなぁ。
「次私?春樹、大山春樹です。男っぽい名前ってよく言われますがしっかり女なので。失礼なこと言う奴がいたらぶっ飛ばすので、よろしく。」
にっこりと笑った彼女の後ろには般若が見えた気がした。
「次俺か?…武田だ。武田浩。陸上部だ。」
物静かな男の子なのか、端的に自己紹介を終わらせている。
チッ、と大西さんの方から舌打ちが聞こえて思わず身を竦める。
何か私の行動が琴線に触れたのだろうか。
「次俺ぇ?えーーーっと、遠田翔です。外部でサッカーをしてまーす。プロになるつもりなんでヨロシク。」
気怠そうに立ち上がった丸坊主の男の子。
その隣の、またもや丸坊主の男の子が少し恥ずかしそうに立ち上がる。
「野球をやってる、えー、と峰田まやです。ちゃかすな翔!…お願いしまーす」
ヒュウヒュウ、と口笛を鳴らす遠田君に鬱陶しげな目を向け座る。
「次、僕かな。柳川裕です。そこの武田と一緒の陸上部に入ってます。えーーっと、もしかしたら、僕に関しての変な噂を聞くかもしれないけど、気にしないでください。」
へら、と笑う彼は随分優しそうに微笑んだ。
そういえば初めに呼んでくれたのも彼。
面倒見の良い人なのかもしれない、と思いながら私も椅子を引き、立ち上がる。
「や、山田…山田紗季です。常識が、無いとよく言われるので…その、間違えたら教えてくれるとうれしいです。よろしく、お願いします…」
私の声が静かな教室に響く。
先生がぱん、と手を叩き授業の説明に移った。
「基本的に5教科はここで。体育は、他のクラスと合同です。どこと合同になるかは週によって変わります。あと君達が問題を起こしても変わります。えー、理科の実験は合同、技術家庭科も合同です。くれぐれも他のクラスと喧嘩しないように。」
ぺらりとした薄い紙を読み上げる先生をぼー、と見る。
桜が窓の外で散っている。
春の温かな日差しは、私達の前途多難な人生を批判しているようにも思えた。
⚪︎×中学校 三年五組
1.大西玲奈
2.大山春樹
3.小川純次郎
4.武田浩
5.遠田翔
6峰田まや
7.柳川裕
8.山田紗季
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