7月、初夏と考査。

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7月、初夏と考査。

「夏だ!プールだ!花火だ!祭りだ!!」 「峰田うるっさい!」 玲奈ちゃんが今日も元気に怒っている。 「でも、夏休みの前に定期考査があるから、た、大変だね」 教科書を机の中に入れながら話すと峰田と遠田、それに武田と春樹ちゃんの動きが止まった。 「そ、そうだった…」 「どうしよう私、夏休み無いかも…」 サーっと顔面蒼白になる2人に慌てて励まそうと手を変な風に動かしていると、武田がぽんと私の頭に手を乗せる。 前はあんなに小さかったのに、いつの間に大きくなっちゃったんだろうな。 「俺らの自業自得だと言いてェ所だが今年は受験もあるし遊べる日が限られてんだ。その貴重な日に遊べねェのは辛いから、勉強会しようぜ。」 「さんせーーい!」 小川のにこにことした元気な声が後押しとなった。 「と言っても、どこで勉強する?ここも、休日は使えるわけじゃないし」 話を進めてくれるのはいつも柳川だ。 「あ、じゃ、じゃあ、私の家、来る?」 急遽、山田家で勉強会が決まりました。 ばたばたと忙しなく家の片付けをしていると呼び鈴がなった。 パパがインターホンをちらりと見遣ると私に声を掛ける。 「紗季、お友達じゃないかな。見てきてくれるかい。」 それはパパが片付けておくから、と預かってくれる。 「あ、ありがとう。見てくるね。」 これで配達の人だったりすると恥ずかしいが、ちゃんと馴染みある声がドアの向こうから聞こえる。 「い、いらっしゃい!」 家に友達を招くなんて、昔の私が見たらどう思うだろう。 「お邪魔しまーす。あ、紗季のお父さん。」 「春樹さん、こんにちは。今日はゆっくりしていってね。」 春樹ちゃんは前にパパと会った事がある。 というのも、何度かパパが学校に来ているのを春樹ちゃんは見ている。 だから面識のある春樹ちゃんだが、他は初対面で。 「あ〜、山田のお父さんって感じだ…あ、遠田です。今日はお邪魔しまーす」 これお菓子です、と遠田が峰田が持っていた紙袋を渡す。 「気にしなくて良かったのに。いつも仲良しな2人の男の子…って事は、遠田君と峰田君かな」 「アッそうです!!峰田です!」 出遅れた、とでも言いたい様にば、と手をあげる峰田にみんなが笑ってしまう。 「小川ですー。紗季といつも仲良くやらせてもらってます」 にこにことしている小川の空気はみんなを和らげてくれる。 「…大西玲奈です。今日はお世話になります。」 「小川君に、玲奈ちゃんだね。いつも紗季がお世話になってます」 ぺこりとお辞儀を返すパパに慌てる。 「パ…父さん!!!やーめーて!」 もう、と怒るがにこにことして反省している風ではない。 「中々食えねえ人なんだな。あァ、武田です」 まるで空手の試合の様なお辞儀で不思議だが武田は似合ってしまう。 「紗季がいつも頼りになるってご飯の時に喋ってる武田君だね。紗季をいつも助けてくれてありがとう」 「もう!!!あっち行って!ぱ…父さん今日仕事でしょ!早く行って!」 ぐいぐいと押してリビングから追い出す。 「土曜日なのにお仕事なの?」 「そうなの。一応お医者さんだからあんまり土日関係ないのかも。」 はは、と乾いた笑いを返すと1人ぽつんと言葉を柳川がこぼした。 「俺は…?」 ハッとした顔になったのは私だけじゃ無いはず。 「…ふ…ふふ」 「山田、遠慮しなくていいよ。気を使う方がこいつらには毒だから。甘やかすとろくなことにならないからね。」 にこにこと笑う柳川はちょっぴり怖いけど面白い。 「だ、だって、これ、んふ、ふふふ」 だめだ、失礼だと思うから我慢しようと思っていたのに笑いが止まらない。 極まり悪そうにむすっとする武田の前に置かれたのはテスト対策用に配られた慣用句のプリント。 「か、河童の真珠…」 「河童が真珠になった…?恐ろしいな」 うわ、と眉を顰める柳川。 「なんか聞いたことあった気がしたんだよ、なんとかの何かの真珠…」 「豚に真珠かな。猫に小判とかそういう系って混ざりやすいのかなぁ」 「俺のはー?自信ある〜!」 「俺も、まあ」 峰田と遠田が見せてくる。 「2人とも、早々に無理だと思ってあやふやで埋めてたよね。」 見せてね、と小川が代表して見る。 「ははは、これも凄いね。山田見てこれ」 「何〜…三人寄れば《強い》…ふふ、確かに三人なら強いね」 もはや面白い所探しになっている。 「あは、これ見て〜!峰田のやつ!うつつ《って何》」 「そこからか…」 「顔が《でかい》は自信ある!!」 「ちょっと悪口に聞こえちゃうね」 私が笑う。 「首を《折る》」 「どこのヤンキーの話…?」 玲奈ちゃんが眉を顰める。 「心血を《飲む》」 「お腹空いた?」 にこやかに柳川が聞く。 「実はちょっと。あ、でも大丈夫!!お菓子持ってきてるし!」 笑いながら遠田に聞くとカバンの中からポケットサイズのお菓子が出てくる。 「でもそれじゃあ体に悪いよ。…あっ、女子組でご飯作る?」 「え!やりたい!ねえ玲奈やろうよ〜」 「…良いけど。2人は料理出来るの?」 男子に片付けをお願いし、三人で台所に向かう。 「何作ろっか。えっと、材料は多分そこそこあるよ」 「お昼、ね…量が多く作れるものがいいわ。男子がいるなら馬鹿みたいな量食べるでしょ。あいつら成長期だし」 うーーん、と3人で悩んでいると、玉ねぎを見つけた春樹ちゃんがぽんと手を打つ。 「カレーは?カレーライス!それならたくさんの量作れるし。野菜もルウもあったし、どう?」 「春樹ちゃんすごい!」 「いいわね、じゃあ私野菜切る。紗季、お米といで?」 「はーい!」 お米なら大丈夫、手伝ったこともあるし。 米を洗い、ピ、と軽い音を立ててボタンを押す、その隣で。 「ちょっと!大きすぎない!?」 「え?そう?うちこんなもんだけどなぁ。あーーでも大口開けて食べるのは…ちょっと女子として駄目か…?もうちょい、こんくらい?」 「うん、それくらいでいいんじゃない。」 「わ、春樹ちゃん手際良い!」 タンタンと軽い音がまな板の上で跳ねる。 「弟達の昼飯とか作ったりするからね。でもやっぱガサツかな〜」 あは、と笑う春樹ちゃんに鍋の様子を見ていた玲奈ちゃんが手を止める。 「そんなことないと思うけど。春樹のさくさく手早いのって割と助かってるわよ」 まるで本当に驚いた、というような表情の玲奈ちゃんは本心から言っていることを示唆していて。 いつもは茶化す春樹ちゃんの顔がどんどんと赤らんでいく。 「えっえ〜…照れちゃうな…」 「春樹ちゃん、お顔赤いね」 ふふ、と笑うと照れ隠しの様にうりゃ、と抱きつかれた。 「でもさくさくっていうと私は玲奈のイメージだけどなぁ。物事決める時って大体玲奈の鶴の一声じゃない」 それも確かに。とカレーのルーをパキパキ割っている玲奈ちゃんの方を見る。 二つの目に見つめられた玲奈ちゃんは気まずそうに明後日の方を見遣る。 「鶴の一声じゃないわよ。…ただ言い方がキツイだけ。実際私がここ来たのもそういう理由よ。」 自分はもうずっとこうなのだ、と自虐的に笑う玲奈ちゃんはなんだか珍しかった。 「きついとあんまり思わないけどなぁ。みんなを思って言ってくれてるんだし、みんなもそれ判ってるから一々突っ込まないんでしょ。え、そうだよね?」 「私もそう思う、よ。玲奈ちゃんは自分のために、ていうよりみんながグダグタになった時に空気変えてくれるから、みんな、助かってるよ」 春樹ちゃんの紡いだ言葉に私が付け足す。 ぱちぱち、とまぶたが何回か閉じたり開いたりした後、玲奈ちゃんのきゅっと結んだ口が柔らかく開いた。 「馬鹿ね。全部自分のために決まってるじゃない。でも、まあありがと。その勘違いずっとしときなさい」 ふん、とそっぽを向く玲奈ちゃんだけど、ゆっくりと鍋の中を回してる手は止めていない。 話していても、自分の役割を忘れない真面目さも、とても好きなのだ。 春樹ちゃんも同じ事を思っていたらしく、2人で破顔した。 「な、何よ2人揃って。…ほら、もう出来るわよ」 3人で話していると、武田が様子を見に来たらしく、廊下からキッチンを覗き込んでいた。 「向こうの片付けも終わりそうだから、なんか手伝う事あるかなと思ってきてみたんだが、無さそうか?ならスプーンとか運ぶか」 「あ、私も手伝う!」 ご飯が炊けるまで少しあるし、この家の持ち主として物の置き場所は把握してある。 「お、ありがてェな。…随分可愛いランチョンマットだな」 ファンシーな兎や鯨、犬や猫が描かれたランチョンマットを出すと武田がげんなりと見つめる。 「マ…おかーさんの趣味で…恥ずかしい」 「え、可愛いじゃん!ま、あんた達が使ってるのを想像するとだいぶ面白いけど」 ふふ、と手を拭きながら笑う春樹ちゃん。 「んじゃ、大山はランチョンマット、紗季はスプーン持ってってくれ。俺も布巾濡らしたら行くから。」 武田の指示にわかった〜と2人揃えて返事をし、リビングに向かう。
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