夜摩王のオ役所

6/9
27人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「もう一度訊く。ほんとに犯した罪に覚えはないのだな? 嘘を吐けば舌抜きの刑が追加されるぞ?」 「はい。何度聞かれても、記憶にないものは記憶にございません」  最後の慈悲に改めて確認をとる閻魔大王だが、それまで生きてきた環境とは恐ろしいもの。愚かにも阿久台は自信満々な様子で、その常套手段が効くものと信じてまたしてもふざけた台詞を繰り返す。 「よし。その者を浄玻璃卿に映せ!」 「うわっ! な、何をする!」  その態度に自白は無理と諦めた閻魔大王は、再び鬼に命じて阿久台を鏡の前に立たせた。 「――ワハハハ、エチゴ建設さん、あんたも悪よのう――ウェヘヘヘ、よいではないかよいではないか――これは全部おまえらのやったことだからな! 上級国民のわしのために、下等民のおまえらが犠牲になるのは当たり前だろう! ――」  すると、まあ出てくるは出てくるは……ゼネコンから二重底に札束の入った菓子折りをもらったり、選挙カー内でウグイス嬢にセクハラを働いたり、挙句は秘書を恫喝して自分のやった違法行為を擦りつけようとしたり……次から次へと彼が生前に犯したゲスな罪の動画が鮮明に映し出されるのだ。  本人主演による実際の映像なので、その生々しさは再現映像の比ではない。これ以上の確たる証拠はないであろう……時空を飛び越えて証拠映像を入手できるこのシステム、わたし達人間界の裁判をはるかに凌駕している。  にしても、見ていて気分が悪くなってくるほどの見事なゲスっぷりだ……こりゃ、もう有罪確定だな……。  そんな、証拠映像を見たわたしの率直な感想通り、閻魔大王もすぐさま採決を下す。 「浄玻璃鏡に映し出された真実により、有罪であること及び偽証は明らか。よって、阿久台寛は舌を抜いた後に、妄語(※嘘)の罪を犯した者の行く大叫喚地獄に収監することとする。早々に引ったてい!」  阿久台のすっとぼけ戦術も虚しく、審議があっさり決すると大王は彼を地獄送りに処する。  罪を犯した者でも軽いものならば六道の内の修羅・畜生・餓鬼のどれかに行くこととなるが、明らかな悪人クラスになるともう地獄行きはマストのようだ。 「な、なぜだ!? わしは記憶にないと言っておるだろう!? おい、弁護士! なにか反対弁論しろ!」  しかし、それでも獄卒に押さえつけられた阿久台は声を荒げると、往生際悪くも閻魔大王に文句を言って、弁護人の地蔵菩薩にも助けるよう命じる。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!