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後日、シンデレラの家にて。
「ほらほら!! ちゃんと掃除しておきなさいよね!!」
姉たちがやかましい笑い声を上げながら、シンデレラに頭から灰を被せる。たった今、シンデレラが始末していた灰だ。
「あんたはそうやって灰を被っているのがお似合いよ!!」
「そうよそうよ!! お姉様の鏡を勝手に使おうとするなんて、身の程知らずもいいところ……」
シンデレラは、恍惚とした微笑みを浮かべていた。
「えええええ!! 何で笑ってるのよあなた!?」
「そうよそうよ!! 気色悪いわね!!」
「姉様たちも如何ですか?」
「冗談じゃないわよって、いやああああ!!」
「近寄らないでええええ!!」
「ちょっと!! 朝っぱらからうるさいわね!! 一体何の騒ぎなの!?」
継母がドカドカと台所に入ってきた。
「お母様聞いてよ!! この子が灰まみれの手で触ってこようとするのよ!!」
「そうよそうよ!! しかもこの子、灰を被ってもニヤニヤして気持ち悪いのよ!!」
「あら? ご存じありませんの? 石鹸の起源は、動物を焼いた際に出た脂肪と灰が、雨と混ざって泡立ったことだと言われているそうですよ」
「えぇ!?」
「嘘でしょう!?」
「ですから、灰はお肌に良いのではないかと思って、お勧めしたのですが……」
小さく項垂れるシンデレラを、姉たちがまじまじと見つめる。
「私たちの……ため?」
「本当に、そうなの? 私たち……てっきり嫌われてるとばかり……」
「そんなわけないでしょう!? 二人揃って何を真に受けてるの!!」
継母の怒声に、姉たちがハッと我に返る。チッ、と内心で舌打ちをしたのはここだけの話。
そんな、いつもの会話の最中だった。
「そなた……」
やんごとなきその御声に、恍惚としていたシンデレラは一瞬で我に返った。
「え、え!? う、嘘でしょう!?」
「お、おおお王子様!?」
「すまない。何だかすごい騒ぎ声がして、こちらから呼びかけても返事がなかったものだから、勝手に入ってきてしまった」
「いえいえいえ!! とんでもございません。こちらこそ、うちの娘たちがみっともないところを見せてしまい、誠に申し訳ございません」
継母が即座に平伏し、鋭い眼光でシンデレラ達を睨みつける。
姉たちがたちまち小動物のように縮まり、継母と同じく平伏する。シンデレラもそれに倣った。
平伏するシンデレラの脳内は、カオスのあまりに硬直化していた。
(どうして、王子様がここに……ていうか、今の私の姿……)
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