シンデレラは靴を落とさない

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   ***  後日、シンデレラの家にて。 「ほらほら!! ちゃんと掃除しておきなさいよね!!」  姉たちがやかましい笑い声を上げながら、シンデレラに頭から灰を被せる。たった今、シンデレラが始末していた灰だ。 「あんたはそうやって灰を被っているのがお似合いよ!!」 「そうよそうよ!! お姉様の鏡を勝手に使おうとするなんて、身の程知らずもいいところ……」  シンデレラは、恍惚とした微笑みを浮かべていた。 「えええええ!! 何で笑ってるのよあなた!?」 「そうよそうよ!! 気色悪いわね!!」 「姉様たちも如何ですか?」 「冗談じゃないわよって、いやああああ!!」 「近寄らないでええええ!!」 「ちょっと!! 朝っぱらからうるさいわね!! 一体何の騒ぎなの!?」  継母がドカドカと台所に入ってきた。 「お母様聞いてよ!! この子が灰まみれの手で触ってこようとするのよ!!」 「そうよそうよ!! しかもこの子、灰を被ってもニヤニヤして気持ち悪いのよ!!」 「あら? ご存じありませんの? 石鹸の起源は、動物を焼いた際に出た脂肪と灰が、雨と混ざって泡立ったことだと言われているそうですよ」 「えぇ!?」 「嘘でしょう!?」 「ですから、灰はお肌に良いのではないかと思って、お勧めしたのですが……」  小さく項垂れるシンデレラを、姉たちがまじまじと見つめる。 「私たちの……ため?」 「本当に、そうなの? 私たち……てっきり嫌われてるとばかり……」 「そんなわけないでしょう!? 二人揃って何を真に受けてるの!!」  継母の怒声に、姉たちがハッと我に返る。チッ、と内心で舌打ちをしたのはここだけの話。  そんな、いつもの会話の最中だった。 「そなた……」  やんごとなきその御声に、恍惚としていたシンデレラは一瞬で我に返った。 「え、え!? う、嘘でしょう!?」 「お、おおお王子様!?」 「すまない。何だかすごい騒ぎ声がして、こちらから呼びかけても返事がなかったものだから、勝手に入ってきてしまった」 「いえいえいえ!! とんでもございません。こちらこそ、うちの娘たちがみっともないところを見せてしまい、誠に申し訳ございません」  継母が即座に平伏し、鋭い眼光でシンデレラ達を睨みつける。  姉たちがたちまち小動物のように縮まり、継母と同じく平伏する。シンデレラもそれに倣った。  平伏するシンデレラの脳内は、カオスのあまりに硬直化していた。 (どうして、王子様がここに……ていうか、今の私の姿……)
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