シンデレラは靴を落とさない

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時計の針は、もうじき午前0時を指す。 王子様と夢のような時間を過ごしていたシンデレラは、ふと目に入った時計を見て思い出した。 『午前0時になったら、お前さんを包むその魔法が解けるからね』 (……別に、このままでもいいんじゃない?)  平民だってバレても、こんなにべた惚れされているんだもの。きっと気にせず見初めて下さるわ。平民が王家に嫁入りした例だって、少ないけどあるわけだし。 (何より、あんな下女のような生活はもうこりごり!!) 「どうした? また顔が硬くなっておるぞ」 「いいえ、何も……」  王子様が、そっとシンデレラの頬に触れる。トクン、と胸が小さく音を立てる。  いつも甲高い女の怒声ばかり聞いているからか、王子様の囁くような低い声だけでもうとろけそうなのに、こんな風に触れられるなんて――――。 「――――――っ!」  その時、シンデレラの脳裏に激しい電流が走った。  シンデレラは思い出してしまったのだ。大人ニキビが、顔中に潜んでいることを。 (今は魔法で隠してもらっているけど、もし、このまま魔法が解けたら……) 「ごめんなさい!!」 「えっ?」  王子様に背を向け、走り出す。  それとほぼ同時に、ゴーンと午前0時の鐘が鳴り始めた。 「待ってくれ!! 一体どうしたというのだ!?」 (あぁ……せっかくのチャンスだったのに……っ)  王子様が追いかけてくるが、階段から転げ落ちて顔面を強打したとしても、絶対に立ち止まるわけにはいかない。この大人ニキビを見られたら、死んでも死にきれないもの!!  シンデレラはガラスの靴を脇に抱え、涙ながらに猛ダッシュで逃走した。
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