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七灘並 奈々海は私のことなんだけど、どんだけ『な』が付くねん!って自分でもツッコミたくなるし、言いづらいことこの上ない。
ありえなくない?って初見で笑われるレベルの苗字のうえに、(いや下か?)奈々海なんてつける親のセンスどうよ。
マジありえねぇ!
って当の本人だって、ウチの苗字が『七灘並』だと知った当時五歳の時からずっとずっと思い続けてる。
まだ小さかった頃は自己紹介でもよく噛んだ。そしてよく男子にからかわれた。
「なあ。七灘並 奈々海って3回言ってみ?」って、早口言葉みたいに言わされた。
私が噛むと男子はぶはーっと笑う。
笑われるのがすごく恥ずかしくて、悔しくて、帰って『七灘並 奈々海×3』の早口言葉を泣きながら必死に練習したりした。
おかげでその成果もあって、今は誰にも負けない自信が無駄にある。
そんな私が、ふとした拍子に昔のことを思い出して、高三の、あの夏の日のことを思い出す。
今思うとそれは、悲恋だったのだろう。
悲恋と言ってもむちゃくちゃ悲しいってほどではないんだけれども、やっぱり私にとって、それは、悲恋だったんだと、今一瞬のうちに悟る。
それに気づいたのは、ガチャーンっておもちゃ箱ひっくり返して、「もー。やったなー」って呆れて、それでもなんだか楽しんでるからいいか、とか思いながらふと、そのおもちゃ箱の底から出てきた、手触りのいい小さいアルパカのぬいぐるみを手に取ったせいだ。
ムニムニがたまんないアルパカのつぶらな瞳を見ながら、いつまてででも触っていたくなるような感触を、ムニムニしながら私はそんなことをムニッとする。
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