5人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
✻ ✻ ✻
「七灘並は小説を書くのが好きなんだ?」
見上げると、村地君の顔があった。
帰りの電車の中でふいに声をかけられたんだ。
私は不覚にも小説を書くのに夢中になってて、目の前に村地君が立ってるのに気が付かなかった。
「俺も小説書いてみようかなぁ」
なんて独り言のように呟いている。
私はそんなことよりも、私の苗字を噛まずに言えてたことにすごく感動してた。
おお、こいつやるじゃんって。
「書いてみればいいじゃん?」って答えて、「したら書き方教えてよ」って言うもんだから、私なんか全然まだまだだよって断る。
だけど半ば強引に使ってるサイトとペンネーム見ちゃったもんねーって、自分の携帯取り出して小説の投稿サイトのアカウント早速作ってるし、携帯のバイブが震えて通知見たら『むらっちさんからフォローされました』ってきてる!
ぐぁーー!
一生の不覚!
恥ず!
「やだ!変態!見たの?やめてよ!」
「え?いいじゃん。別に。帰ってから読も」
嘘。まじで。ありえないんですけど。
何こいつ。私の弱み握って何するつもり?
「ほんとにお願いだから、読まないで」「んー。いや」「お願いします!」「読ませてください。お願いします」「お断りします。お願いします」「えー!誰にも言わないからさ。お願いします」「恥ずかしいんだもん!お願いします」「お願いします!七灘並さん!」
あっ。こいつまた噛まずに言えた。
「よく噛まず言えるね?」
「え?……あ。七灘並?」
「うん」
「なんかさ。人の名前……噛むの。失礼じゃね?」
あれ?
こいつ結構良い奴じゃん。
ってその時思ったんだ。
だから──
「誰にも言わない?」
「ああ。もちろん。内緒にしとく」
「絶対絶対絶対絶対絶対絶ーー対だよ!」
「ああ。絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶ーー対!誰にも言わない!」
「じゃあ……いいよ……」
たぶん。
あの時私は耳まで赤くしてたと思う。
自分の胸の内を見られることがすごく恥ずかしかった。
村地君に、ジロジロ自分の裸を見られるみたいで。
ああ。
私の恥ずかしいところ見られちゃうんだなって、変な気持ちになったんだ。
最初のコメントを投稿しよう!