幸せの味

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屋上へと繋がる階段の踊り場で、緊張に震える男が1人……なんて格好付けてみたが、その男というのは正しく俺であるし、緊張に震えている時点でもう格好良くない。 「あれ、東くん?」 後ろから突然掛けられた声に肩を跳ねさせて振り返る。 そこには学年1のイケメンと名高い、クラスメイトの衣更が立っていた。 その手には乙女チックな桃色の封筒がしっかりと存在している。 きっとラブレターだろう、モテる男はちげぇなぁ。 なんて、普段だったらダル絡みしていたに違いない。……普段だったら。 ダル絡みできないのは、その封筒に心当たりしかないからだ。 「どうしたの、東くん。こんなところで」 キョトン、と。丸くなった目が、気まずさで視線を右へ左へと彷徨わせている俺を映す。 言え。言うんだ。早く、終わらせた方が楽だ。 「お、俺、衣更に伝えたいことがあって」 震える唇でなんとか言葉を紡ぐものの、その声も力なく震えていた。 目をギュッと閉じて、大きく息を吸って 「俺、衣更のことが……す。好き、なんだ」 うがあああっ! 今すぐに逃げ出してしまいたい衝動に駆られる。 ──言ってしまった。 ついに、『嘘の』告白を
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