幸せの味

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なんて、思っていたのだが。 「本当? 嬉しいな。俺、東くんのことが好きだったんだ」 と。 にこやかにその告白はあっさりと受け入れられてしまった。 ……マジで? フラれるつもりが、逆に好きだと言われるなんて想定外過ぎる事態に目を白黒させる。 「な、なぁ。衣更……お、お前、それ、本気で言ってんの……?」 ハハハ。お前も冗談なんて言うんだなぁ!  今この状況だとぜんっぜん笑えねぇから早く撤回しろよーっ! なんて言って笑い飛ばそうと思った。 けど、 (なんつー顔、してんだよ) 白い頬が赤く染まって、目を伏せていた。長い睫毛が震えていて、俺なんかよりもずっと緊張しているのが分かる。 とても笑い飛ばせるような感じじゃない。 冗談の方がよっぽど良かった。 だってお前、女子からの人気凄いんだから選び放題じゃねぇか。わざわざ男なんて選ばなくても……。 顔面蒼白になった俺に、衣更は 「お、お願いがあるんだけど」 か細い声で縋るように俺を見た。 なんだ撤回か? だったら喜んでするけど。 「な、なんだ……?」 その姿が子犬のように見えて、叶えてやらないと。という気分になる。 心持ち努めて穏やかにした声のトーンでお願いとやらを促した、が。 「『衣更』じゃなくて、『頼仁』って呼んでよ。俺も、宗介って呼ぶからさ」 なんと俺の耳元で囁きやがった。 程よく低い良い声が鼓膜を震わせ、俺の脳に甘い刺激を伝える。 「ひっ」 くそ、いい声してやがる。そんなことを考える間もなく、上擦った声を出した俺は囁かれた方の耳を手で覆った。 な、なんだ今の……。 そんな俺を見た衣更は、 「あ、ご、ごめんね! いきなり近寄っちゃって……っ」 大層慌てていた。 大慌てしているのは俺の方なんだが? なんでお前がそんなになってんだよ。とシラけた目を向けると、 「でも、その反応……嬉しいな」 恥ずかしさでキャパシティを超えた俺が何も反論できないことを良いことに、笑いやがった。この小悪魔。十字架のネックレス投げつけてやろうか。
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