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スライスシャトルと咲子の過去
「確率変動誘因防止のため、スカートの着用をお願いします」
大根脚のCAに嫌味ったしく言われて、咲子は緩いドレスに着替えた。搭乗口の更衣室は如何にもな急ごしらえで脱衣かごに長い抜け毛か落ちている。不潔だ。
高校の卒業式以来、人前で晒した事のない素足をCAに鼻で笑われ、睨み返す。壁の黄色い箱も忌々しい。AAAED。Anti-Anomaly-Agile-Equipment-Deployer.
女の人生に死刑を宣告する凶器だ。「貴女は蓋然性擾乱因子陽性者ですね?」
目の前で砂時計を振られ、書類提示を求められるほど侮辱的な事はない。「言われなくてもわかってるわヨッ!」
鬱屈した面持ちで隔離席に座る。本当なら浮ついた場所で纏うために買った一張羅なのに。
停滞場発動の警告が灯り、シャトルがしずしずと滑走する。CAのスカートが微妙に揺れている。
「特権者の攻撃が近い」、と同席した陽性者から苦情が漏れるが「ご安心ください」の慇懃無礼に制圧された。
スチルを支えにしたまま、短い微睡みから覚めると、体が軽くなった。
「まもなくヨォプに到着します」
地球近接小惑星2000Ph5。咲子の切符はここが終点だ。
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