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鋼鉄の水平線
自分はいま、鋼鉄の水平線で逆立ちしているのだろうか。そういう錯覚に陥りそうなくらい、大きい。咲子はスウェンスキー号の船底を仰いでいる。
患者半生記をめくる度に嫉妬心が増幅していく。いっそ、破り捨てて帰ろうかと思うぐらい何不自由ない幼少期。
祥子とは吉祥という芳名から取られたのだという。名付け親は徳の高い住職で、流産を繰り返した母親を見かねて贈ったという。
「目に入れても痛くないほどの子か…」
咲子はエリサ・スウェンスキーのドナーと自分を比較検討してみた。
コウノトリがパンドラの箱に入れて運んできた娘といわれ、煙たがられた。生みの親には早々に見捨てられ、乳児院、養育施設が次々と経営難に陥った。
最後に預けられた拘置所で成人式を迎えた。
「何も悪い事をしてないのに」
理不尽な説教や叱責を受ける度に咲子は主張した。そして平手打ちと決まり文句の雨が降ってきた。
「お前は蓋然性擾乱因子だ。理由があって生かしてやっているんだ。殺されないだけありがたく思え」
舎監や寮母はいつも彼女に「生かされている事のありがたみ」を押し付けた。
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