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それって存在理由になるの?
(それって、生存理由になるのか?あたしってば利用価値があるから、拘置所にいるのか?)
生み育ててくれた親や社会に恩義を感じ、誰かのために役立ちたい。そう考えるのは自発的な善意の発露だからだ。
奉仕の押し付けなんて、義務じゃないか。
出所時期が近づくにつれ、咲子は反抗心を募らせた。蓋然性擾乱因子は量子通信機を脳に埋め込まれ、居場所とバイタルサインを常時監視される。
そして野末という名字を与えられて、乏しい選択肢から天職をみつける。これも所長と看守が吟味し、あれこれ口出しして二転三転した。
「お国が敷いてくれたレールをただ転がるだけで結構な御身分よね」
職業訓練先の上司は咲子を業務上の支障として扱った。
(列車だって脱線する。横転した車体は修繕されることもなく、安上がりな解体廃棄に処せられるのに)
咲子は不平不満を心にしまって、鍛錬に励んだ。仕事内容は確率変動に汚染された地域の支援だ。
めちゃめちゃに壊れた瓦礫を撤去したり、突然の不具を負った人々を訪問介護する。
被災地に復興の2文字はない。誰もが黙っている。でも、わかりきっている。当たり前すぎて動かしがたい不幸。
それに比べて患者は…。
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