女の余生72時間

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女の余生72時間

「特別法定終末者の看取りなんて建前でしょ?」 居並ぶスタッフに咲子は感じたことをぶつけた。 「…どうにかしたいという気持ちは一緒。でも、期限を切られてる」 宙すずらん会病院は、初めて宇宙に出た民間医療法人Chrysopeleaに買収され終末期医療を手掛けていた。 蓋然性擾乱因子者活用促進法の一部が改正され「極めて危険かつ自傷他害および社会に回復困難な影響を与えるおそれ」がある場合は「専門家会議の慎重な判断と指導のもと」特別法定終末者に指定可能になった。 対象者は予後不良と見做され、そのケアに大幅なフリーハンドが与えられる。 「航空戦艦を受け入れる施設も人員も無かった。これ、わたしが辞めた後の話よね?」 咲子の問いは言わずもがな。戦略創造軍のバックアップで建設されたものだ。 「病院で働いている()もいるわ。戦いたくないっていう航空戦艦を何隻か受け入れた。このステーションを造ってくれたのも彼女たちよ」 すごぅい、と咲子は感心した。人間でなくなったことを歯牙にもかけず、黙々とものづくりに励む気丈さが羨ましい。 「処遇に不満はないんですか?」 「ええ、資材さえあればもっと良いものが安く作れるとか、それを探す暇をくれとか、たまには火星でレクリエーションしたいとか」 「QOL高すぎる…」 「それなのにエリサはどうして希死念慮を…」 腑に落ちないと施設長はいう。 「エリサの猶予は?」 あまり言いたくない台詞を咲子が代弁した。 「72時間」 「厚生士本来の業務を開始します」 咲子は隣のドックに入渠しているガウリカにヒアリングした。
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