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――そうだ、話題を変えよう。
「あ、あのう……。あなたは魔法使い? どこかの王子様?」
「ええ、私の名はロセル。この国の王子にして魔法使いでもある。ただし、王位継承権は二十三番目ですが。あなたの名は?」
「ミミミ」
ロセルは相変わらず、ミミミを隈なく観察するようにじろじろ見ながら言う。
「しかし、こんなひどい失敗は初めてだ。よりによって、自分の妃を選ぼうというときになって」
「……あのねえ」
ミミミの中で、何かがぷつんと切れた。
「あなただって、私を妻にするつもりで召喚したんでしょう。その相手に対して、そんな言い方はないんじゃない? それに私、言っとくけど、褒められないと伸びないタイプだから」
「ほお」
物珍しげに、ロセルはまた不躾なほどミミミを見つめる。
だが、その視線からは、さっきよりも冷たさが消えていた。
「それは失礼しました。そうですね……」
ロセルは一瞬言葉を止め、何かの呪文を小さく呟いた。
そして、とてもいいことを思いついたように、無邪気な笑顔で言った。
「おお、そうだ。あなたの肌は、まるであの美しい月のクレーターのようだ! しかしながら、」
ミミミの拳が自然と振り上がり、ロセルへと繰り出される。
彼はそれを難なくかわした。
と同時に、魔法の技なのか、分厚い辞典のような本がどこからともなく現れて、バサリと落ちる。
ロセルは本を拾い上げて盾にしながら、戸惑った様子で言った。
「怒ったのですか? なぜ? あなたの世界では、月はとても美しいものとみなされていると、この『異世界辞典・地球編』に書いてあったのだが??」
「……」
褒めたつもりなのだろうか。
どうやらロセルは、呪文によって、その辞典の内容を読まずに把握できるらしい。
しかしきっと、ななめ読みでもして、使い方を間違えたのだろう。彼に悪気はないのだ、とミミミは都合よく自分に言い聞かせた。
同時に、ロセルが、またもや気になる言い方で言う。
「ミミミ。磨きようによっては、まだあなたも何とかなるかもしれません。素質はなくもない。あなたの世界へ行きましょう」
「えええ!?」
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