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彼女が働くチェーンのカフェは、今日もモーニングを食べにくる客で早朝から混み合っていた。
ガシャーン、と大きな音がフロアに響く。
「申し訳ございません!」
フロア全体に向かって、ミミミは反射的に大声で叫ぶ。
彼女が落としたグラスは割れ、運ぼうとしていた水と氷、ガラス破片が床にぶちまけられる。
――今回は、落としたのがただの水でよかったわ。
などと思ったのは、もちろんミミミだけである。
「一体、何回目なんです?」
モーニングとランチの間、少し客足が落ち着いたころ、店長の大谷由香が、ミミミをバックヤードに呼び出して言った。
「すみませんでした……」
「すみませんじゃないでしょう!」
大谷は、ミミミより一つ年下だ。だから一応、敬語で話しかけてはくる。
だが、ミミミを完全にお荷物扱いしていることは、ふだんからの態度でよくわかる。
若くて美人だが、スタッフに対して厳しい大谷は、皆から「鬼の店長」などと呼ばれている。だが、ミミミが厄介者扱いされるのは、単に大谷が厳しいからでなく、ミミミに非があるからだということを、ミミミ自身もわかっていた。
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