9人が本棚に入れています
本棚に追加
3
そして彼女は、いつものぐちゃぐちゃの自分のワンルームのアパートで、ふたたび目を覚ました。
銀髪のロセルが、さわやかに笑いかける。
「おはよう、ミミミ」
「ぎゃー!」ミミミは思わず叫んだ。
「ぎゃーとは何です、失敬な。さあ、早く支度をして。朝食は食べないのですか? それはよくない」
「なんであなたがついてくるのよ!?」
「私がいなければ、あなたは何も改善するつもりがないではないか」
ニコニコ笑いながら、食事内容から顔の洗い方まで、ロセルはミミミの行動の欠点を逐一ビシバシと指摘する。
いつも出かける直前に起きて、いい加減なスキンケアのミミミは、ロセルの指導に従っていると、遅刻寸前だ。
ミミミが文句を言うと、ロセルは意外にしょんぼりした顔で言った。
「気に入りませんか? これもすべて、私の良き妻になっていただくための善意なのですが」
「う。……ていうかあなた、魔法使いなんでしょ。魔法でぱっとキレイにしてくれたらいいじゃない」
「そういうわけにはいかないのです。あなたが自分で自分を変えなければ意味がないのだから」
しかし、とロセルは思い直したように、ふと微笑んでミミミの頬に触れ、額がくっつきそうなほど、ぐっと顔を近づけた。
「!? 何をっ?」
「動かないで。今、魔法で分析しているのです」
ミミミの動揺など気にせず、冷静にロセルは言う。
「今使っているこの化粧水は、あなたの肌に合っていないようですね。ふむ……こちらを」
ふわっとロセルの手から煙が出たかと思うと、その煙につつまれて、一瓶の化粧水らしきものが現れ出た。
「どうぞ。これを使ってみて。ちゃんとこの世界のものですよ。それからこちらも」
言うが早いか、ロセルはそれらのスキンケア用品を、自分の手でミミミの顔に施し始める。
「ちょっと! さっきから勝手に触んないでよ!!」
「しかし、使い方もレクチャーしなければ、あなたのやり方では宝の持ち腐れです。しっかり自分で覚えて」
耳まで火照っているミミミに対し、相変わらずロセルは冷静だ。
その手つきは、まるで美容部員である。
最初のコメントを投稿しよう!