どんななまえをつけようと

1/1
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 私には、親友がいない。 「あー、茉奈(まな)。どうしたのこれ、かわいー!」  同じクラスの璃子(りこ)が、買ったばかりのペンを目ざとく見つけて声をかけてきた。 「わあ、本当だ。可愛いね」 「見せて、見せて」  席の近い女子が集まって、話しかけてくる。  みんな友達だ。  SNSでも繋がってるし、こうして喋るのは楽しい。でも親友? って聞かれると、私にはよく分からない。  確かに仲はいいんだけど。  今日は私の誕生日。  だけど、このクラスの誰も、それを知らない。  ◆◆◆  (あおい)だったら、もしかしたら覚えてくれてるかもしれない。  でもあの子は違うクラスになってからあまり会わなくなったし、今は彼氏がいるから。  やっぱり親友なんかじゃない。  授業が終わったら、みんなはさっさと部活に行く。私は部には入ってないから、放課後の教室でのんびり後片付けをしてた。  すると廊下をパタパタと走る足音。そして後ろのドアがガラッと勢いよく開けられた。 「やほー、茉奈! まだ居たね。よかったー」 「葵……どしたの?もう部活始まるんじゃないの?」 「いいのいいの。今日はさぼっちゃおうと思って。あのさ、茉奈って今日の放課後は」  こうして葵が放課後に来るのは、彼氏ができてから初めてかもしれない。  前は時々こうして、部活をサボって一緒に帰ってた。でも彼氏ができてからは、ほら……。 「走ってどこに行くのかと思えば。葵、もうみんな部室に行ったぞ」  彼氏は葵と一緒の部活だから、いつだって彼女の側にいる。  束縛が酷い彼ってわけじゃないんだけど、仲が良すぎて私には辛い。 「あー、今日は部活休むって、みんなに言っといて」 「なんでだよ」 「だって、今日は茉奈の誕生日じゃん。ね、茉奈。誕生日には一緒に買い物行こうって約束したもんね」 「……そうだっけ?」 「えー、覚えてないの?去年の私の誕生日の時に、約束したでしょ!」 「ああそうだったか、仕方ないな。先生には俺が適当に言っとくよ。じゃあまた明日な。谷口も誕生日おめでと」  意外なほどあっさりと、彼氏は手を振って教室を出ていった。 「でさ、茉奈、今日は一緒に帰れる?」 「……うん」 「じゃあさ、まずは一緒にプレゼントを選んでから、ケーキセット食べようよ」 「うん。あのね、聞いていい?」 「なに?」 「どうして私のほうを……。彼氏とか部活じゃなくて、私の誕生日を優先してくれたのかなって」 「それは、だって茉奈は友達じゃん」  そっか。友達か。  ちょっとだけ、葵の口から『親友』って言葉が出たらなって思った。 「やっぱいいね。茉奈と喋るとほっとするわ」 「私……喋るのトロいのに」 「いいんだって。ほっとするよ。もっと一緒に帰りたいんだけど今は部活がサボりにくくてね」 「そっか。今年は私たちの学年が主力だから」 「そうなのよー。次の大会、応援していてね」 「うん。応援しにいくよ」 「やったー! 茉奈が来たら勝てる!」  大きな口を開けて笑う葵に引っ張られて、教室を出る。  私も少しだけ、声を上げて笑った。  葵にとって私は友達で、私にとっても葵は友達。  だけどその関係にどんな名前をつけようと、私は葵が好きなんだなって思う。 「ハッピーバースデー、茉奈!」 「ありがとう」  一緒に帰ろう。  買い物をして、ケーキを食べよう。  ハッピーバースデー、私!  ――了――
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!