それはまるで魔法のように

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「いつか君に話そうと思ってたことがあるんだ」 「なんでしょう?」 「僕は不思議な力を利用して君と出会ったんだ。ある薬品を飲むことで得られる魔法のようなものを使ってね」 「またおかしな冗談を――」 「冗談じゃないんだ」男はむきになった。 「君と出会う前の日、ある雑貨屋に立ち寄ったんだ。そこで見つけた〈理想の恋が手に入る薬〉って薬品を買ってだなぁ。それを飲んだわけだ。すると、君に出会えた」 「薬品って――いつか見た瓶のことですか?」 「そんなこともあったなぁ。まさに、あれだよ。あれのおかげで、こうして素晴らしい人生を君と歩めた」  それを聞くと彼女は、ベッドを小さく揺らしながら笑いはじめた。馬鹿げた話だと笑いたくなる気持ち、分からなくもない。ただこうして、二人が人生を共にしてきたことは確かだ。  笑い泣きの涙を目尻にためた彼女は、込み上げてくる笑いを抑えながら言った。 「あの瓶の裏面を、よく読んだことはありました?」 「裏面?」 「ええ。注意書きが書かれてあるところですよ。そこをよく読めば、そんな魔法がこの世にないということが分かりますから」  そんなものは読んだことがなかった。あの日、雑貨屋から帰ってすぐに薬品を一気飲みした以来、まじまじと瓶を眺めたことなどなかった。ただ、どうにも捨てられなくて、瓶を取っておいただけ。それにしても、あの苦くて甘い味は今でも思い出せる。 「裏面には何が書いてあるんだい? それに、もし薬に効果がなかったとしたら――君が僕を選ぶ理由なんてないじゃないか」  焦って問いかけてみたが、笑い疲れたのか、彼女は眠ってしまっていた。  家に帰ると、男は机の隅に置いてある薬瓶を手に取った。何が書かれてあるのか気になって仕方がなかった。  瓶の裏面に目を通す。それらしい注意書きが並ぶ末尾に書かれていた文字、〈これはジョークグッズです〉。  思わず笑みがこぼれた。薬には効果なんてなかったんだ。純粋に信じてきた自分が可愛らしく思えた。そして何より、ジョークグッズのネタばらしの下に彼女が手書きで書き入れたメッセージ。それを見た瞬間、こらえていた涙が一気に溢れ出した。  そこには、〈あなたを選んだ理由は――ひと目惚れです〉と、丸みを帯びた文字で書かれていた。
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