それはまるで魔法のように

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それはまるで魔法のように

 少し早い梅雨が訪れ、傘が手放せなくなったある日のこと。変わらない日常が始まり、会社までの道のりを歩く。無数の傘の中から、人の波に逆らって歩いてくるひとつの傘を見つけた。その傘は男のそばまで来ると急に立ち止まり、手にした赤い傘を閉じた。 「あの……」  ふいに声をかけられ戸惑う。緊張と照れが入り混じった声は、男に告げた。 「付き合ってもらえませんか?」  あの薬品の効果がもう現れたのか!? 目の前に立つ美しい女性。男は信じがたい冗談に付き合うように「――ぜひ」と答えた。 「こんなところにこんな店……あったかなぁ」  休日だからといって、特別やることがあるわけじゃない。暇を埋めるように、男は自転車でブラブラしていた。  私鉄の高架下にポツンと一軒、見慣れない店を見つけた。それは、絵に描いたように古ぼけた雑貨屋。興味が向くまま、気づけば入り口の扉を開いていた。貝殻で作ったドアベルが心地良い音を奏で、狭い空間にビッシリと商品が敷き詰められた店内が覗く。 「いらっしゃい」  奥の暗がりから、しわがれた女の声が聞こえた。何も買わずに店をあとにするのは気がひけるなと思いながら、適当に商品を眺める。 「ん?」  男は思わず声をあげた。そこにあったのは、〈理想の恋が手に入る薬〉と書かれた薬瓶。手に取ろうとしたとき、奥から声の主――腰がひどく曲がった老婆が近づいてきた。 「彼女は?」やけに唐突な質問。 「彼女は――いませんけど」 「ならちょうどいい。それを飲むとアンタの理想の恋が手に入る。中東の辺りじゃ大昔から服用されてきた薬だよ。信じる信じないはアンタ次第だけど、よかったら」  まるで占い師のような老婆の語りに乗せられるまま、男は薬品を購入していた。
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