7人が本棚に入れています
本棚に追加
2
もうすぐ五十だから腰がね、なんてぼやきながら席を立ち、白衣の背中を丸めながら、ポットやマグカップの置かれた棚に近づく。
棚の中には紅茶の缶に日本茶、ほうじ茶、ウーロン茶、コーヒー(しかも、インスタントではなくレギュラーコーヒーだ)そしてハーブティが並んでいる。その隣に備え付けられた小さな冷蔵庫の中には必ず牛乳と、夏になれば水出しの麦茶まで入っている。カフェでも始められるんですか、とよく冷やかすのだが、その度に「それでもいいかも」と存外真面目に考えだすのでたまったものではない。
「そうそう、昨日『うずまき屋』のカステラを貰ってねえ。これから開けるんだよ」
なんて言いながら、いそいそと飲み物を選び始めている。鼻歌すら歌いだしそうな様子に、俺は呆れて苦笑すら浮かべることも出来ない。
あなたの頭や手は、ただ美味しいお茶を淹れるためのものではないのに。
「芳田さん、ろくに俺の報告書も読まずになにやってるんですか」
「ちゃんと読んだよー、酷いなあ。ああ、高橋くんはどれにする? 紅茶もコーヒーもたくさん……」
「俺はカフェイン苦手なんです。ええと、牛乳は――」
最初のコメントを投稿しよう!