ジンジャエール

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ジンジャエール

久しぶり実家に帰ると、父はいつも私に冷えたジンジャエールを渡してくる。 「今日は手巻き寿司だぞ、準備で来てるから早く席に着きなさい」 そう言いながら父はジンジャエールを渡してきた。 「手巻き寿司にジンジャエールって」と私は言った。 「え!お前これ好きだろ。」 父にとっては私はまた子供なのであろう。 幼いころの私は、父の晩酌に良く付き合った。 晩酌には普段の食事には並ばないおつまみがよく並ぶからだ。 私が、父の飲んでいるビールに興味を示しだすと、アルコールは飲めないからと、いつしかジンジャエールを渡されるようになった。 父の真似をして、ジンジャエールを飲んでいた。 当時の私は苦くて、炭酸も強かったが大人の仲間入りをしている気になっていたのだろう。 美味しいといいながら飲んでいた。  父が亡くなってから、久しぶりに実家に帰省した。 「ただいま。」 「おかえりなさい、今ご飯用意してるからなにか飲み物でも飲んで待ってて。」 冷蔵庫を開けた。 今日はジンジャエールが入ってなかった。 「あれ?お母さん、今日はジンジャエールないの?」私は冷蔵庫を覗きこみながら聞いた。 「え!ああ………ないよ。 あれは、いつもお父さんが買ってきてるんだよ。 あんたが来るってわかると、お父さんがコンビニで5本も6本も買って来てたんだよ。」 「あなたそんなにジンジャエール好きじゃないじゃない、 いつもお父さんに合わせて飲んでただけじゃない」 「え、そうだけどさ。」私は冷蔵庫を閉じた。 「ん~ちょっとまっててね。確かね… あった、ぬるくてよければどうぞ。」母は、棚の奥からジンジャエールを出した。 「ありがとう」 私は受け取り、ジンジャエールを父の仏壇の前で飲んだ。 いつもよりぬるくて甘くて少ししょっぱい味がした。
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