第一話

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 母の実家では昔から吸血鬼がよく出るらしい。人口あたりに占める吸血鬼被害件数の割合は、周辺地域の実に三十倍にもなるのだとか。  ホームセンターに行けば吸血鬼対策グッズがずらりと並び、子供の帰宅を促す町内放送では『吸血鬼が出やすい時間帯になりました、早くおうちに帰りましょう。十字架がない時は、指をバッテンにして高く掲げながら帰りましょう』という呼びかけが行われる。  吸血鬼過密地域ならではの意識の高さとして、そんな様子が全国の様々な風習を紹介するバラエティ番組で何度も取り上げられているそうだ。  数年前からこの地域での吸血鬼被害がさらに広がり、かつ子供が多く狙われるようになったことから母の毎年の帰省に僕は連れて行ってもらえなくなった。「危ないからもうお前は連れて行けないわ」と母に言われ、のどかな田園風景に親しみを抱いていた僕は随分と落胆したことを憶えている。 「そもそも吸血鬼退治にエクソシストって、合ってるのかな」  誰にともなく呟く。エクソシストといえば悪魔払いの専門家だ。吸血鬼と悪魔は微妙に違う気もするのだが、この際そんなことは大きな問題ではないのだろう。今恐れるべきはそんな言葉選びの正誤ではなく、これからやって来るであろうエクソシストとやらより先に野良の吸血鬼にでも出会ってしまうことだ。
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