第一話

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 そうは言っても無人の家でじっとしているのも心もとなく、僕は少し散歩に出ることにした。じきに来るであろうエクソシストを待とうかとも思ったが、この辺りに視界を遮るほど高い建物はない。家の近くを少しだけ歩いて、それらしい人物が来るのが見えたら家に戻ればいい。  この辺りを歩くのは七歳の時以来なので実に八年ぶりのことだが、案外地理は憶えているものだ。  景色やここを訪れた時の感情はこんなに記憶に残っているのに、不思議と出会った人や話した内容となるとひどくおぼろげだ。  それが歯痒いが、子供の記憶とは得てしてそういうものなのかもしれない。 「今日は曇りだけ、暗うなるとテンカが出るけん。気いつけやぁ」  そう声をかけられ、耳慣れない単語に思わず振り返る。畑仕事の途中らしい、人の良さそうな老人が立っていた。 「すみません、テンカって何ですか?」 「ああ、見慣れん顔だと思ったらこの辺の者じゃないな。テンカちゅうんはアレよ、血吸いの鬼よ。今は吸血鬼なんて言いよるが、テンカテンカて、古い時代の者はみんなそう呼ぶわな」  どうもテンカというのは、吸血鬼を指す古い方言のことらしい。幼い頃はそれなりに何度もここを訪れていたはずだが、その言葉を聞いたのは初めてだった。あるいは、忘れているのかもしれないが。
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