第一話

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「はよ帰った方がいいやなぁ、天気が崩れてきよるでなあ。家は近いけ?」 「そこの夢宮(ゆめみや)の家です。僕は旧の甥で夢宮樹といいます」  夢宮は母方の姓だが、我が家は父が婿入りをしたので僕の苗字も夢宮なのだ。  いつの間にか遠くまで来てすっかり小さく見える家を指すと、老人は破顔して懐かしむように言う。 「そうけ、夢宮の。(いさむ)んとこのちび助か。あれはもう昨日のことのようでなあ」  勇という名に聞き覚えは無いが、母の家系の誰かなのだろう。しばらく会っていない上に親戚の名前さえ把握していないとは、我ながら薄情なことだ。 「じゃあ、今は旧も家にいるんけ」  老人はさらに訊ねる。 「いえ、叔父は朝早くに出かけてしまったんです。いつ戻るかもわかりません」  いつ戻るかもわからないというのは比喩ではない。叔父は昔から放浪癖があり、いつもふらりといなくなってしまうそうなのだ。  それを聞くと老人は急に真面目な顔になり、僕に言った。 「そんなら気いつけや。テンカは一人でおる者を狙うでな」  
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