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その日も薄暗い自室でSNSの画面をスクロールしながら、見ているんだか見ていないんだかわからない速度で人様の愚痴や詩を受け流していた。ときどき目についた色鮮やかな写真に流れ作業的にハートを送りながら、文字の塊を飛ばしていく。上から下へ、白と黒の明滅を繰り返している画面のなかで、ふと、青い光が見えた。思わず指を止めて、その投稿をタップする。拡大された文章をそっと、指でなぞる。
その瞬間、世界から音が消えた。しとしとと、言葉がぼくに降り注いで、滲んで、淡い水色の染みをつくる。それは次第に濃さを増して、青く溶けていく。静謐な世界のなか、その一音一音がやさしく、けれど鮮明にぼくのからだに染み込んでいくのがわかった。
なんだ、これ。今まで抱いたことのない感情がぼくを支配している。全身が脈打って、スマホを持つ手が震えた。ひとつ、呼吸を整えて、もう一度スマホの画面を見る。 アカウント名は美雨、さん。アイコンは淡い水色の、紫陽花だった。衝動に促されるがままに、ぼくは投稿した人物のアイコンをタッチした。すぐにプロフィール画面が映って、いの一番に飛び込んできた自己紹介文に目を奪われる。
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