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「悪ふざけ? 何だよ? それ。おまえ、十年前は七歳だろ? 何を憶えてるって言うんだよ⁉」
「逆に君は何を憶えてるんだ? その様子だと何も憶えてないんだろ?」
立石に図星を指され黙り込んだ木梨を見て、スグリは驚きの声を上げた。
「憶えてないの? どうして?」
「解離性健忘」
「カイリセイケンボウ?」
木梨のボソッとした声は聞き取りづらかったが、スグリはそれ以前の問題として当てはまる漢字が思い浮かばなかった。
「強いストレスによる記憶障害だ。俺は十年前、この島で行なわれたミステリーツアーのことも、島に来るために高速ジェット船に乗ったことすら憶えていない。あんたらの顔も名前も知らなかった。去年、祖父が死ぬまでは」
「え? おじいさんが?」
ラブちゃんこと村野が木梨に同情の目を向けたが、木梨はそれを冷ややかな目で跳ね返した。
「十年前、両親が死んで、俺は祖父に引き取られた。両親の死んだ経緯だけがすっぽりと記憶から抜け落ちていたが、祖父はその時のことを話そうとはしなかったし自分も尋ねなかった。ところが、祖父が去年肺炎で死亡して遺品を整理してたら出てきたんだよ、リストが」
「リスト?」
「両親の葬式の時に香典を送ってきた人のリスト。住所録を元に祖父の死を親戚や友人に連絡していたら、おかしなことに気付いた。その十年前の香典リストの中に両親の関係者でもなく祖父母の知り合いでもない人間が六人いたってこと」
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