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「すぐにお父さんも飛び込んで、スグリちゃんのお父さんも二人に続いた」
俺は金槌だったから見てただけだけど、と塚本が目を伏せる。
「うちのパパは泳ぎが得意だったから。それでも海の中で翼くんを探し回って力尽きた。そうですよね?」
スグリが朝子に目を向けると、朝子はハンカチを目に当てて何度も頷いた。
「立石くんと石塚さんが三人を何とか浜まで引き上げたのよ。待ち構えていたラブちゃんと塚本くんと私とで、それぞれ人工呼吸と心マで蘇生を試みたけどダメだった。ジェット船まで運んでAED使いながら病院へ搬送したけど、やっぱりダメだった」
岩屋の外には眩しく光る大海原が広がっていた。遠くの沖に目をやれば穏やかに凪いだ海。しかし、足元では岩場に打ち寄せる波が渦を巻いている。
浜辺にへたり込んで立ち上がれない立石と石塚。丸太のように動かないスグリの父と翼の両親。波打ち際で必死に心臓マッサージを繰り返す三人。
木梨の脳裏にフラッシュバックのように当時の映像が次々と映し出された。
「うあ――っ‼」
木梨が低い唸り声を上げたかと思ったら、獣のような叫びが島に響き渡った。膝から崩れ落ちた木梨が、振り絞るように慟哭しながら滂沱の涙を流すのをスグリは無言で見つめていた。
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