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 久しぶりに懐かしい実家に帰ったメバルを年老いた母は優しく迎えた。メバルは持ってきた瓶ビールをあけると、父と自分のグラスに注いだ。 「僕はずっと、モズクがうらやましかった。父さんはモズクを叱らない。僕だけを叱った。もちろん、モズクはいい子で、僕はどうしようもないわんぱく坊主だったけどね」  メバルは苦いビールを一口飲んだ。 「厳しく育てられたことを感謝する人もいる。でも、それは嘘っぱちじゃないかって思うんだ。もし、僕があのまま厳しく、カミナリを落とされ続けてたら、父さんの後を追って、数学の道に進むことはなかったと思う。厳しく育てられた子供たちは、優しく育てられた友達を心の底ではうらやましく思っている。そして、そっちの方が良かったってわかってる。でも、それじゃあ、辛い思いをした日々がただの損だったってみとめることになる。だから、厳しく育てられたことに、無理やり感謝して正当化するんだ。そうして、自分がされたように自分の子供や生徒に厳しく、辛く当たる」  フナが茹でた枝豆を持ってきた。メバルが子供の頃に父が使っていたガラスの器に山盛りにして。 「でも、それは間違いだ。本人も本当のところは気づいているはずだ。父さんのようにね」
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