5

2/2
前へ
/11ページ
次へ
 枝豆をつまんで口に入れ、ビールを飲んだ。苦い。これを美味いと言う味覚が、今でもわからなかった。でも、父の真似をして、なんとなくビールを飲むようになったのだった。 「あの日、父さんがそのことに気づいてくれてよかったと思う。一緒に風呂に入って幾何学を教えてくれた。中之島は塾で学んだけど、僕は風呂場で父さんに数学を習ったんだ。僕の自慢だよ」  写真の凪平は笑顔だった。穏やかな表情で、優しく猫を胸に抱えていた。 「これが新しい論文。この定理、ここんとこの証明、わかる?すっごくトリッキーだ。僕ってやっぱ天才だったんだよ」  メバルはくっくっくっと笑うとフナにぺろっと舌を出した。僕はもう大丈夫、カミナリなんて気にしてないよ。  フナはエプロンで涙を拭った。 Q.E.D.
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加