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 そんなシジミが、ある日恋人を連れてきた。職場の同僚で、髪を七三分けにして黒縁眼鏡をかけた真面目そうな男だった。こんなおっちょこちょいを嫁にもらってくれる人が現れるなどと思っていなかった二人は、喜ぶと同時に不安になった。  男にシジミの病名を言い、幼い頃からの言動を包み隠さず告白した。だが、男は「そんな娘さんに僕は惚れたんです」と言った。フナの頬を涙が伝った。  シジミは結婚した。ただし、凪平は条件を出した。二人だけで生活するのは無理だから、しばらく一緒に住んでほしい、と。シジミができないこと、片付け、掃除、出かける準備、買い物、料理、つまりほぼ家事全般をフナが手伝うので、できるようになるまで根気よく待って欲しい、と。そうでなければ、結婚生活は半年も続くまい。  男もまだ経済的に独立できる給料はもらっておらず、二つ返事で了承した。庭付き一軒家、二世帯でも十分余裕があった。  ところが、ある日、フナが妊娠していることがわかった。もう40近い年齢だった。また発達障害の子どもだったら、若いとは言えない妻に何かあったら、凪平は不安だった。  月が満ちて、難産の末、男の子が生まれた。二人にそっくりな丸顔の元気な男の子だった。男の子はメバルと名付けられ、すくすくと育った。  しかし、メバルも落ち着きがない、多動傾向のある子どもだった。間違いない、ADHDである。  昭和の時代、まだADHDは親のしつけの失敗と考える医師や教師もいた。凪平は、今度こそ子どもを厳しく育てようと考えた。それが親の務めだと信じた。フナはそれに従い、口を出さなかった。  そして、ひょっこりフナがまた妊娠した。もう超高齢出産と言える年だった。幸い安産で、可愛らしい女の子が生まれた。二人はモズクと名付けた。モズクは落ち着きがある、内向的な性格だった。だが、もう凪平が子どもに構うことはなかった。
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