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 高度経済成長とバブル景気を追い風に、凪平の勤める家電メーカーは当初順風満帆だった。だが、リーマンショックで一気に経営は落ち込んだ。同僚はリストラされ、給料は上がらなかった。シジミのおっちょこちょいは相変わらずで、義理の息子の経済力も相変わらず。独立して家を出る気配はなかった。  凪平は書斎にこもり、子供達と会話をすることも少なくなった。だが、メバルが小学生になり、凪平は自分の書斎を子供に明け渡した。凪平が一人で落ち着ける唯一の場所は、なくなってしまった。  会社は持ち直したが、凪平が積み上げてきた経験はもう通用しない時代だった。髪は抜け落ち、残りわずかに1本、定年はもうすぐだった。だが、住宅ローンはたっぷり残っているし、長男と次女はまだ小学生、これからの学費も今の給料で足りるのだろうか。長女夫婦はまだ居候状態、出て行ってくれれば夫婦の部屋を書斎にしようと思っていたのだが。  そんな折、長女夫婦にも子供ができた。凪平には初孫だったが、もう喜んでいる余裕はなかった。いったいこの給料でどうやって暮らしていくのか?シジミは相変わらず何も気にしていない様子、義理の息子も独立して父親の責任を果たそうという意思はないらしい。  凪平は苛立っていた。全ての責任が自分にのしかかる。爆発しそうだった。だが、苦労をともにしたフナに辛く当たることはできない。シジミには夫がいる。モズクはおとなしいいい子だ。まさか飼い猫にあたるわけにはいかない。そうなると凪平が爆発する相手はメバルしかなかった。  厳しく育てなさい、そう医師や教師が言っていたではないか。カミナリを落とした後、凪平はメバルにすまないと感じていた。しかし、凪平は自分に言い聞かせた。これは、教育だ、しつけだ。たまったストレスやフラストレーションをぶつけているのではない。メバルはいつも明るく元気だ。叱ってもくじけるような子供ではない。自分だって戦後の辛い時代を生きてきたのだ。そう自分に言い聞かせた。  そして、また凪平はカミナリを落とすのだった。
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