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***  その数日前、凪平とフナは以前とは別の小児精神科医を訪れていた。ADHDに対する考えも時代とともに随分と変わっていた。  二人がシジミにした育てかた、シジミのおっちょこちょいを受け入れ、出来ないことは手伝って、無理にさせないこと、これを医師は絶賛した。つまり、出来ないことは出来ないのだ。片付けや時間を守るのは難しいのだ。それはひとまず手伝ってあげて、本人の出来ることを伸び伸びとさせてあげる、これが正解だったのだ。医師の言葉に二人は、はじめて救われた。  医師は、説明した。ADHDはだいたい5%、つまり20人に一人の割合で存在する。珍しくはないのだ。まだ原因はわかっていないが、少なくとも親のしつけの失敗でないことは、明らかになりつつあった。多動を薬物で抑制する治療もあるが、日本ではやんちゃ坊主やおてんば娘を受け入れる社会的寛容性がある。  ならば、長所を伸ばしてやればよい。シジミの底抜けの明るさは人を幸せにする。シジミと接する人はみんな笑顔になれる。それを潰さなかった両親を褒めてくれたのだ。  だが、凪平はメバルに反対のことをしてしまった。医師はそれを修正することができると言ってくれた。そして、以前の医師が言ったネガティブな事象には触れず、こう言った。 「だいたい伝記になるような天才はほとんどADHDです。モーツァルト、アインシュタイン、エジソン、シュリーマン・・・メバルくん、天才かもしれませんよ」  医師の言葉を聞いて、凪平とフナは涙が止まらなかった。メバルにしてしまった厳しい的外れな教育、いや、教育ではない。しつけと称して当たり散らしていただけなのだ。凪平は、もう少しで明るい幸せな家庭を壊してしまうところだったのだ。 ***
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