おかあさん

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「ゆりちゃん、この部屋使ってね」 「すみません、ありがとうございます」  お義母さんに案内されて、私は二階のお義父さんの部屋に入った。お義父さんはしばらくの間、和室に移って寝てくれる。 産まれたばかりの奈乃(なの)は良く寝ている。今のうちに荷物を片付けよう。  赤ちゃんの体温は高いから、夏場の出産は授乳にしても抱っこにしても暑い。 前もって部屋にクーラーを効かせておいてくれたお義母さんの優しさが嬉しい。  はじめての育児はわからないことだらけだった。出産から退院までの数日、産院で色んなことを習う。 授乳の仕方 ミルクの足し方、その量 哺乳瓶の消毒の仕方 げっぷのさせかた オムツの替え方 沐浴の仕方 服の着せ方 育児日記の記録の仕方  病院では助産師さんたちがいろいろ手伝ってくれた。でも、退院と同時にそれらは全部自分でやらなければならなくなる。不安しかない。  実家の母はまだ仕事をしているから、平日の実家には父と祖母だけだった。  祖母は元気ではあるけれど、少し認知症が進んで感情的だった。  父はいわゆる田舎の亭主関白おやじだから、何も手伝ってくれないだろう。  実家に里帰りしても、身の回りのことや奈乃の世話を全て自分でやらなければならない。逆に祖母の介護や家事を手伝わされるかもしれない。  実家の母は私に、 「帰ってこないほうがいいよ」 と言った。  そうして私は産後、産まれたばかりの奈乃を連れて、夫の実家に里帰りした。
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