メモリゲイン

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メモリゲイン

とある国の片隅の村に住むジュンは毎日に飽きていた。 何も変化がない時間の流れを感じる日々。 でも、時々不思議な夢を見る。 小さな少年と少女が一緒に笑って花畑を走り回っている。 それを遠くから眺める自分。 第三者の視点から見ているはずなのに既視感を感じるのだ。 まるで、自分自身の出来事のように……。 「おーい! ジュンちょっといいか?」 窓の外を眺めながらぼーっとしてると隣の家に住んでるカインが扉の外で呼んでいる。 「カイン、なんか用か?」 カインはこちらに顔を近づけ、 「あの森に行ってみないか?」 「あぁ、噂の森か」  あの森というのは、国が出入りを禁じた森のことだ。 噂によると、その森には魔女がいて森に入った者を出れなくするらしい。 なら、その森を燃やすなりなんなりすればいいと思うかもしれない。 けれど、魔女が魔法で結界のようなものを張っていてどうにもならないらしい。 「行ってみようぜ! ちょっと覗くだけ!」 「なんでそんな行きたいんだよ? というか一人で行け」 「怖いもの見たさってあるだろ? それだよ。あと一人は怖いからやだ」 (めんどくさいやつだなぁ。でもまぁ、俺も少し興味があるんだよな。) 「はぁ、分かった。行こう」 「よっしゃ!そうと決まれば早く行こうぜ」   2  そんなこんなで森に着いた。 「ここが噂の森かー! 奥の方とか真っ暗でなんも見えないな!」 「そうだな。さぁ、もう見たし帰るか」 「待て待て、もう少しだけ中を見てみようぜ!」 「これ以上見てもしょうがないだろ。何も見えないんだから」 カインは森の方を指差す。 「あ! なんか光ってるぞ!」 「ん? ……何もないぞ。」 「ほら、あそこだよ……。もっと奥」 「んん? どれだよ?」 と少しずつ森の奥の方にと足を運ぶ。  すると突然、自分の身体が後ろから突き飛ばされた。 「うわっ! ……何すんだよカイン!」 カインはらしくない不気味な笑いをしていた。 「ふふふ、もう君は出られないよ。この森から」 「お前……! 誰だ!!」 「ふふ、いずれ分かるわ。じゃあね坊や」 視界が木々で防がれていく。 「おい! 待て……!」 慌てて元いた方へ走り出すが間に合わなかった。 全方位が木々に囲まれてしまい、木々の先は黒い闇が広がっている。 「やられた……。まさかあれが魔女なのか……? いや、今はそれよりもここをどうやって抜け出すかを考えなくちゃな」 とりあえず歩いてみるしかないな。 不安を抱えながらも俺は歩いた。 根っこに躓いたり、蔦に絡まったりしながら歩き続けた。 しばらく歩いていると光が差し込み、目の前に小さな家があった。 見た目は絵本で見たことあるような煙突のあるレンガ造りの家。 庭の花とか木がすごい綺麗。 誰か住んでるのは間違いないと思った。 「もしかして、これが魔女の家? ともかく行ってみるしかない」 そう思って、俺はその家の扉をノックした。 返答がない。 「いないのか……?」 もう一度ノックしてみた。  すると、『ガタッ』という音の後に『パリーン!』という何かが割れる音がした。 何となくそーっと扉を開けてみた。 そして俺が扉の先で見たのは、自分と同じ歳ぐらいの女の子の姿だった。 その近くには、さっきまでティーカップだったであろう物の破片が飛び散っている。 「えっと、大丈夫?」 とりあえず声をかけてみた。 「は、はい! 大丈夫……です」  その子は、すぐに立ち上がって割れたティーカップを片付け始めた。 聞きたいことがあるので、とりあえずこの子が片付け終わるのを見ながら待っていた。 白髪の長い髪にはピンク色のリボンが結ばれている。 目は赤い宝石みたいにキラキラしていた。 服は手作り感溢れるフリルの白いワンピース。 そこから出ている手足は透き通るように白い。 まるで人形みたいだ。 思わず見惚れてしまって何も言わずに見つめる俺に、その子は震えた声で尋ねた。 「あ、あの。何か、ご用でしょうか?」 声をかけられ、自分の目的を思い出す。 「えーと、俺この森に迷い込んじゃって。出口かなんかを知ってたら教えて欲しい」 そう伝えると、その子はとても困った顔をした。 「ごめんなさい。私にも分からない。私ここから……出られなくなっちゃったから」 「え……?」 その子はワンピースの裾を握り、俯いて黙り込んでしまった。 (あんまり聞いて欲しくないことを聞いちゃったかな……。うーん、でも困ったな。これ遠回しに帰る方法ないって言われてないか? これからどうするか) 「あの……」 黙っていた女の子がこっちを向いて言った。 「魔女の家に行けば分かるかもしれません」 「でも、場所分からないし」 「行き方を紙に書くので、座って待っててください」 そう言うと女の子は、近くのペンと紙を取って書き始めた。 正直なところ、元凶の所に行くのは怖い。 そもそも、魔女に会ったら殺されるんじゃないかとさえ思う。 でも、わざわざ書いてもらってるのに「やっぱいいです」とはさすがに言えない。 それよりも、この女の子。 どこかで会った気がするのは何故だろう。 初対面のはずなのに他人とは思えない。 「すみません……お待たせしました」 書いてくれたメモを渡してくれた。 とりあえず、行ってみるだけ行ってみるか。 どっちにしろ、手がかりは何もないし。 「本当は……行って欲しくない」 女の子は声を重くして言った。 「でも、出られる可能性があるとしたらそこしかない」 ため息をつきながら、女の子は目線を下に落とした。 「とにかく気をつけてね……ジュン。」 「ありがとう。あれ? 俺君に名前言ったっけ?」 「う、うん言ってたよ!」 「……? まぁ、いいや。とにかくありがとう……えっと、まだ名前聞いてなかったよね?」 「あぁ、うん。私の名前は……メアリ」 「メアリか、メモありがとうな。じゃあな」 扉に手をかけ出る。 ……はずだったけど、開ける直前に服の裾をメアリに掴まれた。 「どうしたの……?」 服の裾を握る手が強くなった。 「……気をつけて、魔女は本当に危険だから」 声がさっきよりも重い。 「分かった、気をつける」 そう答えるとメアリは手を放して、それ以上は何も言わなかった。 「じゃあな、メアリ」 俺は森の出口の手がかりを探すため、メアリの家を後にした。  3 周りの景観が変わらないので本当にメモ通りに進めているか分からない。 足場も悪く、なんだか進めば進むほどぬかるんでいる。 「本当にこっちなのか……? いや、疑うのはやめよう」 わざわざ書いてもらったしな。 「……にしても、歩きづらい」 歩く度にくるぶし辺まで埋もれる。 「……ん?」 足が……動かない!? 「ふふふ、単純な子ね」 声をした方へと目を向ける。その姿に驚きを隠せなかった。 「メ、メアリ……? いや、お前……魔女だな」 メアリの姿をした魔女は哀れな目を向け、 「気がつくにはもう遅いわね。時期に全身が沈むわ、ふふふ」 「くっ……」 もう腰あたりまで呑まれようとしている。 「ふふ、まぁ冥土の土産に良いものを見せてあげるわ」 「良いもの……?」 魔女は杖を取り出し、俺の額に突き当てた。 頭に何かが流れ込んでくる―――――――――― ――――――――――これは……? 花畑に少年と少女がいる。仲良さげな二人は楽しそうに走る。 「これは、あの夢……? というか、あの二人……!」 少年の姿は、俺……? 少女の方は、メアリ……!? 二人は遊び疲れて、帰ろうとしていた。 その時。 二人の目の前にあからさまに魔女の格好をした女が現れた。 「ふふふ、ここは私の敷地なのだけれど。なんで子供がいるのかしらね」 メアリは怯えながらも言葉を発した。 「ご、ごめんなさい!」 「ふふ、どうしようかしらねぇ」 俺も怯えながら魔女に言った。 「ど、どうしたら許してくれますか……?」 魔女はニヤリと笑った。 「ふふ、そうねぇ……じゃあそっちの女の子。ちょっとこっちに来なさい?」 「え……? は、はい」 メアリは魔女の元へ近寄った。 「坊や、この子貰うわね。あなたはもう消えなさい」 魔女は指を弾いて音を鳴らした。その瞬間、俺は消えた。 「ジュン!!」 メアリはその場に崩れ落ちた。 魔女は不気味に笑う。 「ふふふ、安心しなさい。坊やはここに来る前の場所に送ったわ。まぁ、あなたの記憶を消した状態で、だけどね」 「そんなっ……!」 魔女は少女の首を掴み上に掲げる。 「私が欲しいのは、あなたの皮なのよね。だから中の魂はいらないわ」 「うっ……ぐっ」 メアリは嗚咽を漏らし苦しんでいる。 「さぁ、邪魔な中身は消えなさい」 掴んでいない方の手でメアリの胸に手をかざした。 その瞬間、メアリは動かなくなった。 「さて、良質な皮が手に入ったわ。これで遊びましょ。ふふふ」 嘘だ……こんなことが――――――――――  4 ――――――――――意識が現実へと戻った。 もう既に首まで埋まる所まできている。 「ふふふ、どうだったかしら? 失ったものを取り戻せた気分はどう?」 メアリの姿をした魔女がそう聞いてきた。 「くそっ……。よくもメアリを……!!」 魔女は再び笑う。 「ふふふ、あの子の皮はこの森に誘い込むのに丁度よかったわ。簡単にホイホイ来るんだから笑っちゃうわよね。おかげで色んな皮を手に入れたわ」 「じゃあ……あのカインも……」 「そう、私よ。ふふ」 「悪魔め……!!」 魔女は心外そうな顔をして、 「あら? 私は悪魔じゃないわ。魔女よ。」 口元まで沈んだ。 「もうお別れの時間ね。ふふふ、メアリちゃんやカイン君によろしくね」 俺は最後の最後まであの女を睨みつけ、そして死んだ。  5 ジュンが昨日いなくなった。 俺も探してみたけど、どこにもいなかった。 「あいつ、どこいったんだ?」 ジュンは勝手にフラフラどっか行くようなやつじゃないんだけどなぁ。 その時、ノックの音が聞こえて俺は扉を開ける。 「おい! キール! ジュンがどこに行ったか分かったぞ!」 とカインが言ったことに驚いた。 「ほんとか! どこだ!?」 「森の方だ! 早く行こう!」 「あぁ!」 あれだけ探していなかったのに、カインはどうやって見つけたのかなんて野暮なことは聞かなかった。 早くあいつに会って、なんで居なくなったか確かめなきゃな。 「ほんとに、単純ね。ふふ。」
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