八二

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「?」  ズルッ……  ズルッ……ズルッ………… 「なんだよぉ! 今度は何なんだよ!」  ズルッズルッと何かを引きずる様な音がする。  湿ったその音は幸一に近付いて来ている。  ズルッ…… 「ひっ!」  ズルッ…… 「ヒイィ!」  ズルーッ……  幸一は激しく呼吸を繰り返した。  幸一がゼィゼィと呼吸を繰り返す音と、ズルズルという得体の知れない音が、暗闇に溶け込む。  幸一は恐怖の虜になっていた。  ただ、音が聞こえているだけだというのに、その音の正体が分からないというだけで、こんなにも恐ろしいものか。 (にっ、逃げよう! この部屋から逃げよう!)  幸一は一歩動く。  そして、足下にある何かに躓き、豪快に転んだ。 「痛いっ!」  一体何に躓いたのか?  幸一は、何から何まで自分に起こっている状況が分からなかった。 「たっ、助けて……」  自分以外には、気絶しているまゆみしかいないというのに幸一は、そう呟いた。
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